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駅弁の女王小林しのぶが選ぶ 絶対に食べたい駅弁

おぼろ昆布とアサリの時雨煮の組み合わせが絶妙
きぬ巻時雨寿司
吉野口駅

 調製元の柳屋は、明治44年(1911)に和歌山線吉野口駅で「鮎ずし」の販売を開始した老舗。近年は「柿の葉寿し」のヒットで全国にその名が知られるようになった。「きぬ巻時雨寿司」は、具材をおぼろ昆布で巻いた寿司がメーンの弁当で、おぼろ昆布が絹のように見えることから命名されたという。

 紙製の長方形容器に、おぼろ昆布に包まれた10カンの寿司が整然と並ぶ。酢飯は、滋賀県産のコシヒカリを使用して炊いたもので、中央にはアサリの時雨煮が入っている。この酢飯を包むのが、カンナで薄く削った北海道産の真昆布だ。海苔でなく昆布を使ったのがこの寿司の特徴で、ショウガを入れて煮込んだアサリの甘辛い味覚と、薄口に仕上げたおぼろ昆布の風味が見事にマッチして、濃厚だが上品な味わいが口中いっぱいに広がる。10カンとも内容は同じだが、飽きずに完食できる。

 滋賀県産の米、小豆島の醸造元がつくった醤油、そして北海道産の真昆布と、厳選した素材による組み合わせの妙を楽しめる一品。このボリュームで500円以内に収まる値段設定にも拍手を送りたい。

ワンコインで買える駅弁はきぬ巻時雨寿司だけじゃない?
  • 価格:460円
  • 種類:珍素材
  • 調製元:(株)柳屋
  • 電話:0745-67-0017

素材のよさが際立つ薄味仕立てのタイの押し寿司
元祖鯛鮨
敦賀駅

 以前、本欄で紹介した塩荘(しおそう)の駅弁「鯛の舞」(1350円)の通常版。値段も1000円と求めやすくなっている。

 駅弁としては珍しい平行四辺形の容器に、ひと口サイズのタイの押し寿司が12個並ぶ。この寿司は、福井県産米の華越前とコシヒカリをブレンドしたオリジナルの酢飯に、若狭湾で水揚げされたタイの身を三枚におろして薄塩で締めたネタを合わせたもの。見た目は変哲のない押し寿司だが、食べるとタイの身は甘く、しかも驚くほどやわらかい。ふわりとしたネタの食感と、ほどよく押し固めたシャリとのハーモニーがこの駅弁の醍醐味だ。酢を抑え目にしているため素材のよさが際立ち、飽きずに食べ進むことができる。押し寿司なので空腹もしっかり満たされる。

 現在、「元祖鯛鮨」は敦賀駅でもっとも古くから販売されている駅弁だが、素材の選択や調理の工夫などの積み重ねがロングセラーの秘訣だと確信した。機会があれば、歴史が育んだこの名品をぜひ味わってほしい。

「トレたび」おすすめプレイバック

若狭湾に沿って走る風光明媚な路線
  • 価格:1000円
  • 種類:海鮮系
  • 調製元:(株)塩荘
  • 電話:0770-23-3484

下田と龍馬のゆかりを8品にこめたロマンあふれる駅弁
伊豆 龍馬 飛翔会席膳
三島駅

 大河ドラマ『龍馬伝』の放送をきっかけに企画された駅弁で、平成22年(2010)2月に発売された。龍馬ゆかりの場所というと高知や長崎が思い浮かぶが、実は伊豆半島南端の下田も龍馬と浅からぬ縁がある。

 内容は、八角形の容器に伊豆名物のキンメダイの酒蒸し、野菜と伊勢エビの煮こごり、土佐名物のカツオの昆布巻きなど8品の料理を収めたもの。「八」にこだわったのは、龍馬が起案したと伝わる「船中八策」に掛けたから。おかずでは、容堂公が好んだといわれる酒(剣菱)を使ったキンメダイの酒蒸しが絶品。日本酒の甘味と生ワサビのギャップがキンメダイの旨みを見事に引き出している。

 龍馬と下田の因縁にもふれておこう。勝海舟とともに伊豆を訪れた龍馬は、嵐を避けるためにこの地に逗留していた藩主・山内容堂に謁見する。このとき容堂は、龍馬の脱藩赦免の証しとして白扇にヒョウタンの絵を描いたという。このエピソードにちなみ、ご飯は扇とヒョウタンにかたどられている。
 地場の名産品とエピソードをふんだんに詰め込んだ名品。数量限定の販売なので、見かけたら迷わずに購入しよう。

■「トレたび」おすすめプレイバック■

富士山の優美な山裾を思わせる三島駅舎の外観
  • 価格:980円
  • 種類:魚介系
  • 調製元:(株)桃中軒
  • 電話:055-963-0154

オホーツク海産のホタテ煮がたっぷり
帆立弁当
網走駅

 宗谷岬から知床岬に至るオホーツク海沿岸はホタテの名産地。天然ものが数多く獲れるほか、最近では3cm程度の稚貝を海にまいて自然に育つのを待つ、地まき養殖も盛んに行なわれている。海の滋養をたっぷり吸収したホタテをメーンにしたのがこの駅弁。容器のフタには、オホーツク海に沈む夕景の画像が印刷されており、哀愁漂う光景が旅情を感じさせる。

 内容は、醤油スープで炊いたご飯に錦糸卵を敷き、その上にホタテやシイタケ、キヌサヤ、梅干などを盛りつけた。使われているホタテは小粒の稚貝で、これが弁当内に十数個入っている。どれだけ箸で掘ってもホタテが出てくる気前のよさがうれしい。地場産の醤油と砂糖で煮込んだホタテには、甘辛いタレの味覚がしっかりしみ込んでおり、素材の旨みと絡み合って絶妙なうまさを醸し出す。

 ご飯は北海道産米のななつぼしを使用。上品な薄口仕立てになっているためホタテ煮との相性は文句なし。見た目以上にボリュームがあり、味覚・風味・満腹度のすべてを満足させる駅弁といえる。

■「トレたび」おすすめプレイバック■

網走を含む北海道2泊3日の鉄道の旅
  • 価格:840円
  • 種類:海鮮系
  • 調製元:(株)モリヤ商店
  • 電話:0152-43-2015
※掲載されているデータは平成25年2月現在のものです。

 

女王PROFILE 小林しのぶ 旅行ジャーナリスト・エキベニスト・駅弁愛好家

 駅弁の食べ歩きは20年以上に及び、食べた駅弁の数が5000を超えることから"駅弁の女王"と呼ばれる。全国各地の調製元と新作駅弁の共同開発を手がけるほか、新聞、雑誌、ウエブ等に連載多数。プロデュースした駅弁は「1000号はっこう弁当」「東京もちべん」(東京駅)ほか。

 フードアナリスト。日本旅のペンクラブ会員。千葉県佐原市出身。

 近著に『全国美味駅弁 決定版』(JTBパブリッシング)、『五つ星の駅弁』(東京書籍)、『どんぶりこ』(交通新聞社) 、『超いまうまい帖』(ぶんぶん書房)、『すごい駅弁!』(メディアファクトリー)などがある。NEXCO東日本で展開している「どら弁当」の監修者でもある。

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