『トレたび』は、交通新聞社が企画・制作・運営する鉄道・旅行情報満載のウェブマガジンです。
1.オーダージーンズもOKのベティスミス・ジーンズミュージアム 2.塩田王・野﨑武左衛門の邸宅内に建ち並ぶ土蔵。美しく、圧巻 3.ジーンズを染める藍たてから関わる藍布屋の染め工房「藍のぞき」 4.柔らかい餅の中味はイチゴをはじめ16種。変わり大福が人気の甘月堂 5.大阪住吉大社の太鼓橋がモチーフの倉敷市瀬戸大橋架橋記念館 6.北前船の全盛期、20数軒の廻船問屋が建ち並んでいた下津井の町 7.下津井は良質の水が湧く町。共同井戸には必ず水神が祀ってある 8.海の安全の守り神・祇園神社から瀬戸大橋を眼下に望む
国産ジーンズが初めて誕生したのは昭和35年、倉敷市児島がその地である。江戸時代からの綿織物と染めの技術を生かしたイノベーションだった。市内には染めから織りまで一貫して製品を作る「藍布(らんぷ)屋」の染め工房「藍のぞき」やアウトレットを併設する「ベティスミス・ジーンズミュージアム」、自分でジーンズのアイテム作りを楽しめる「わがまま工房」等々、たくさんのジーンズメーカーがあり、まさにジーンズの聖地。体験したり試着したりしていると、児島の町歩きは時間がたっぷり欲しくなる。週末と祝日はJR児島駅起点のジーンズバスが走っているので、うまく使うと便利である。
児島は江戸時代末に野﨑武左衛門が開発した塩田の町だった。ジーンズバスは広大な屋敷のその「野﨑家旧宅」近くもめぐる。思わずため息の出る豪壮な野﨑邸。建ち並ぶ蔵の一つが製塩の歴史や方法などを説明した資料館になっている。
また、児島は瀬戸大橋の本州側の起点の町でもあり、瀬戸大橋開通を記念した「倉敷市瀬戸大橋架橋記念館」がある。その1階では地元の複数のジーンズメーカーのジーンズを展示。2階には世界の橋の模型やパネルが展示されている。
児島の町をめぐったあとは、鷲羽山夕景鑑賞バスで鷲羽山へも足を延ばしたい。夕日に瀬戸の風景が刻々と変わっていく様は、一瞬たりとも見逃したくない壮麗な世界だ。一日の終わり、いい音楽を聴いている気分になってくる。
1.玉島港の灯台。元は柏島にあった灯台の灯器部分だが、今は玉島港のシンボル 2.羽黒神社参道に隣接の洋風建築の銭湯「みなと湯」。昭和2年築だ 3.映画『ALWAYS三丁目の夕日』のロケ地・みなと水門は昭和23年生まれ 4.町を守るために造られた溜川。玉島の象徴的水辺の風景の一つだ 5.円通寺本堂前に立つ良寛像。22歳から38歳までここで修行した 6.玉島の庄屋だった旧柚木家表座敷。奥は備中松山藩主のお成りの間 7.百年企業が並ぶ仲買町。4月の造り酒屋の蔵コンサートは人気のイベント
若き良寛が修行した円通寺のある町・玉島。ここは江戸時代初めに干拓でできた土地である。だから、新しい土地を水から守るために溜川のような遊水池を残し、あちこちに水門を築いてきた。町は“近代的”とは言えない風貌だが、それ故か、気持ちが安らぐ。人の体温が感じられるから……かもしれない。
この町の始まりである羽黒神社の参道に隣接して、これまたレトロな銭湯「みなと湯」が健在。この町で昭和が舞台の映画が撮られたというのも肯ける。ロケのあったみなと水門から通町(とおりまち)商店街を左に見て、右に進めば玉島の庄屋を務めた旧柚木(ゆのき)家住宅のある矢出町。土壁、黒板塀、格子の家……。一瞬、時を間違えそうだ。
旧柚木家から川筋に出ると白い灯台が目を引く玉島港。新港橋の向こうが町並み保存地区の新町通りだ。この通りは干拓時に汐留堤防として築かれたもの。そこに問屋を営む商人が誘致され、往時は43軒の問屋と200以上の蔵が並んでいたという。南側が船着き場。備中松山藩の海の玄関口であったところである。
新町から昭和橋を渡って右に行くと、大正橋までの間が仲買町(なかがいちょう)。味噌醤油の蔵や造り酒屋、紙屋や畳屋が並ぶ。江戸時代からの商いが今も続いているのだ。良寛が修行した円通寺は昭和橋を渡ってまっすぐ坂道を上がる。寺の裏の公園からは眼下に玉島の町や瀬戸の海が一望だ。「俗に非ず、僧に非ず」。静かに生きるを良しとした良寛。その生きる決意は玉島でできた、という話に納得する。
下津井電鉄廃線跡は今、遊歩道・風の道。プラットホームは休憩所
茶屋町~児島~下津井を結んで大正時代初めに開通した下津井電鉄。ナローゲージのほっこりする電車だった。平成2年に運行を終了し、その軌道跡の児島~下津井6.3kmが「風の道」と名付けられた歩行者・自転車専用道になっている。名前の通り“風”を満喫。歩いてよし(約2時間)、自転車よし(約1時間)。この軌道幅がいい。広すぎず狭すぎず。“人のための道”を実感する。途中、市街地も通るが、大方は路傍に花を愛で、桜並木の下を潜り、眼下に瀬戸内海を見、緑陰に鳥の声を聞く道だ。
往時のプラットホームや架線柱、駅表示板等々はそのまま残され、瀬戸大橋の見える鷲羽山駅には新たにトイレも設置された。JR児島駅にレンタサイクルがあるのでひと走りしてみたい。
本格的な段飾りや内裏雛、御殿雛をはじめ、木彫りや陶器・備前焼のお雛などを、商店街や旅館・ホテルなど町の随所に展示。さらに雛めぐりにちなんだ「ひな膳」や「ひなランチ」などオリジナル雛料理も味わえる。また、地元商店街などによるイベントも楽しみ。
倉敷に春を告げる毎年恒例のイベント。倉敷美観地区の新名所として誕生した「倉敷物語館」や歴史的な町並みが様々な灯りで幻想的に染め上げられる。今年からは色とりどりの灯りで表現する「春宵あんどん」がワークショップとして新登場。参加型イベントで倉敷の夜を体感したい。
文・写真=西本梛枝 写真協力=倉敷観光コンベンションビューロー
※掲載されているデータは平成22年2月現在のものです。