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今年は雪国の鉄路の安全を守る雪かき車が登場して100周年を迎えました。今回は豪雪と闘う雪かき車にスポットを当てて紹介します。
(文=結解喜幸 写真=結解学)

What's 雪かき車?

 北海道や東北など雪国を走る鉄道にとって冬の除雪は必要不可欠なものであり、明治中期頃には貨車に除雪用の前すきなどの装置を取り付けた「雪かき車」が使用されていました。明治44年(1911)になると本格的な雪かき車として、アメリカのラッセル&スノープロウ社からユキ1形(単線用・ラッセル車)を購入し、北海道での使用を開始しました。
 この車両は2軸ボギーの全木製車で、前すきと翼を備えた基本構造に翼開閉用の圧力空気を得るため、蒸気機関車から送られる蒸気で駆動する空気圧縮機を装備していました。良好な試用結果が得られたため、明治45年(1912)には札幌工場(現在のJR北海道苗穂工場)で7両が新製されました。
 また、大正2年(1913)にはアメリカから複線用の雪かき車も購入し、当時の札幌・大宮・金沢の各工場で単線用・複線用が製造され、昭和2年(1927)には単線用のキ1形が86両、複線用のキ500形が6両配置されるようになりました。
 昭和3年(1928)からは車体を鋼製としたキ100形が44両、キ550形が1両製造され、さらに回転雪かき車(ロータリー車)のキ600形広幅雪かき車(ジョルダン車)のキ700形かき寄せ雪かき車(マックレー車)のキ800形・キ900形など用途に応じた雪かき車が登場し、これまで人力で多大な労力を使った除雪作業の効率化が推進されました。
 昭和30年代前半までの雪かき車は蒸気機関車に推進されて使用されるタイプでしたが、昭和36年には入換用のディーゼル機関車DD13形の先頭部にキ550形と同様の複線用のラッセル雪かき装置を取り付けたDD14形が登場。昭和40年までに46両が製造されましたが、除雪期以外はラッセル部を取り外して入換用に使用できるため、ディーゼル機関車+ラッセル装置・ロータリー装置のスタイルが基本となりました。
 その後はかき寄せ羽根車ヘッドを取り付けたロータリー式のDD14形や除雪ラッセルヘッドを取り付けたローカル線用のDD16形、DD14形を出力アップしたDD53形、DE10形に除雪ラッセルヘッドを取り付けたDE15形が登場。山形新幹線用としてDD51形にDE15形の除雪ラッセルヘッドを取り付けたDD18形やかき寄せ羽根車ヘッドを取り付けたDD19形も登場して、雪国の冬の安全とアクセス確保に活躍をしています。

日本各地で活躍をしたキ100形ラッセル車

 明治44年(1911)にアメリカのラッセル&スノープロウ社から輸入したユキ1形(単線用・ラッセル車)をモデルに国鉄工場で製造・増備されたキ1形は、大正時代に入ると日本各地の積雪地帯の除雪用として活躍するようになりました。蒸気機関車の前に連結するのが基本スタイルで、蒸気機関車から送られる蒸気で駆動する空気圧縮機で除雪翼などを駆動。車両の前頭部はくさび形で線路上に積もった雪をかき分け、左右に付いた翼ではね飛ばして除雪するのが基本スタイルです。
 昭和3年(1928)から昭和31年(1956)にかけて194両が製造(うち18両はキ400形からの改造車)されたキ100形は、進行方向の両側に雪をかき寄せる単線用で、複線用としては進行方向の片側(国鉄は左側通行なので左側)に雪をかき寄せるキ550形が製造されたほか、キ100形の先頭部を複線化改造してキ550形に編入された雪かき車もありました。
 また、大正12年(1923)にマックレー車によって線路上にかき寄せられた雪を遠くへはね飛ばすため、先頭部に回転翼を取り付けたロータリー車のユキ300形が登場。アメリカのアルコ社から2両輸入し、日本の雪質に合わせて設計変更したものを国産化して14両が製造されました。その後、キ300形からキ600形に形式変更されています。さらに、昭和23年(1948)にC58形のボイラーと炭水車を使用してロータリーの動力用蒸気を搭載したキ620形が5両製造され、豪雪地帯の除雪に活躍しました。

日本全国の積雪地帯で活躍したキ100形のラッセル部分を複線用としたキ550形

蒸気動力式のロータリー車のキ600形。蒸気機関車と同じ仕組みで回転翼を動かすスタイル

豪雪地帯の名物となったキマロキ編成

 線路に積もった雪を線路際にかき寄せるラッセル車だけでは、線路際に雪の壁ができて豪雪地帯に対応できないため、線路上の雪を回転翼で投雪するロータリー式が使用されるようになりました。蒸気機関車+マックレー車+ロータリー車+蒸気機関車の編成が、機関車の「キ」+マックレー車の「マ」+ロータリー車の「ロ」+蒸気機関車の「キ」の頭文字を組み合わせた「キマロキ」編成です。
 まずは蒸気機関車の次に連結されたマックレー車のキ800形やキ900形がハの字形の開閉式翼で線路際の雪壁を崩し、線路の中央に向けて落としていきます。次に連結されたロータリー車のキ600形の回転翼の前に落とされた雪を遠くへはね飛ばし、線路際の雪壁を無くすという仕組みです。
 キ600形は蒸気機関車のボイラーや炭水車にロータリーを組み合わせたスタイルで、除雪能力を向上させたキ620形とともに豪雪地帯で運用されました。まずはラッセル車で線路際に雪壁を作り、そしてロータリー車が回転翼で雪を遠くに飛ばす姿は、豪雪と闘う地方の力強いスタッフでした。
 現在、キ600形はキマロキ編成に組みこまれたキ604が名寄市北国博物館、キ601は小樽市総合博物館、キ620形のキ621が福島県西会津町に保存されています。

名寄市北国博物館の旧名寄本線上に保存・展示されている9600形とD51形のキマロキ編成

キマロキ編成の中間に連結されるマックレー車のキ900形とロータリー車のキ600形

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