名古屋駅の東海道・山陽新幹線ホーム。その隣の関西本線ホームから「快速みえ」は出発する。通常は2両編成のディーゼルカーで、うち1両の半分が座席指定席になっている。
今ではあまり耳にすることがなくなった“船”のようなディーゼル音を響かせて、快速みえは一路、鳥羽へと出発。大きく右へとカーブした列車はあっという間に郊外に出て、地上駅では最低海抜(-0.93m)のところにある弥富駅を過ぎる。弥富は「日本一の金魚の産地」として有名な水郷地帯で、日本にいる金魚約25種類が全て揃うという。
そんな水郷の町を過ぎると、まもなく列車は大河・木曽川、続いて長良川、揖斐(いび)川の長い鉄橋を豪快に渡ってゆく。エンジン全開で近鉄線と併走するその姿は、まるで運動会の徒競走のよう。思わず「頑張れ! 負けるな!!」と応援したくなる走りっぷりである。名古屋から約20分で最初の停車駅・桑名に到着だ。
“その手は桑名の焼き蛤”の掛け詞で知られるほど、桑名のハマグリは江戸時代からの名物。時間が許せば、ぜひ途中下車して本場の焼きハマグリを楽しんでみたいものだ。
桑名から南下すると、快速みえは石油コンビナートが林立し、貨車が多数たむろする四日市駅を経て、伊勢鉄道経由の近道で県庁所在地・津に到着する。平仮名1字で「つ」と大きく書かれた駅名標がユニークで、思わず見とれてしまう。もちろん「日本一短い駅名」である。津からは2009年で全通50周年の紀勢本線で南下。伊勢平野を快走して松阪を目指す。
松阪は江戸時代の国学者・本居宣長(もとおりのりなが)の故郷であると共に松阪牛でも有名だ。下車してゆっくり食事をしたいところだが、今日は駅弁で我慢ガマン。松阪駅には「匠の技 松阪牛物語」や「黒毛和牛モー太郎弁当」、「元祖特撰牛肉弁当」など牛肉駅弁が多彩だから、十分楽しめる。
松阪を出て櫛田川を渡ると多気(たき)駅。ここで紀勢本線と別れ、ゆるやかに左へとカーブしながらいよいよ参宮線に入る。地名以外の名称がついた路線名は全国的にも珍しい。「参宮」とはもちろん「お伊勢参り」のことで、明治44年(1911)に全通した由緒ある老舗路線である。
なだらかな山中を縫うように走り、外城田(ときだ)川沿いの田園地帯を通って宮川(みやがわ)橋梁を渡ると伊勢市駅に到着だ。
伊勢市は伊勢神宮外宮(げくう)の門前町として栄えた町。駅から400mほど歩けば外宮に到着する。平成25年の式年遷宮に向けて様々な祭事や行事が行なわれているので、時間があればぜひお参りしたい。
伊勢市駅を出ると、山麓を迂回する近鉄線と分かれ、列車は二見浦(ふたみのうら)駅に向かう。初日の出の夫婦岩で有名な二見浦は、駅舎も夫婦岩をモチーフにしている。
かつては東京や関西から直通列車も運転されていたため長いホームが今なお残り、往時の盛り上がりを静かに語っている。「SL列車に乗ってやってきたかった……」。それも今では叶わぬ夢か。
松下駅を過ぎ、左へ大きくカーブすると列車は海岸へと躍り出る。前方に広がるのは「池の浦」と呼ばれる静かな入江。夏には臨時の池の浦シーサイド駅がオープンし、海水浴客の歓声で賑わう。
列車は複雑なリアス式海岸に沿って走り、海苔養殖のいかだやヨットなどの船溜まりを見ながら海を渡れば、終着駅・鳥羽に到着。約1時間50分の快速みえの旅は終わりだ。
海洋観光都市・鳥羽の海岸に出ると、潮風と海の匂いが実に心地よい。明るい日差を全身で受けて、開放感一杯になった。