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夏の休日に青春18きっぷオトナ旅へ。土曜の午前9時2分、新宿駅から乗り込んだのは中央本線を走る「ホリデー快速ビューやまなし号」。今年8月11日は「山の日」に制定されたが、この中央本線は山並みの絶景路線。車窓右側には奥秩父、勝沼ぶどう郷駅からは左側に南アルプスの山々を仰ぎ見ることができる。同列車は全車両2階建てなので、2階席に座り、その山景色を堪能したい。
列車はさらに進み、車窓に日本百名山のひとつである八ケ岳が姿を現わすころ、小淵沢(こぶちざわ)駅に到着。ちょうどお昼時ということで、名物駅弁の「元気甲斐」(1500円)を購入する。二段重ねの駅弁はボリューム満点、見た目よし。まさに旅路への元気が湧くというもの。
ここからは高原路線の小海(こうみ)線の旅へ。12時29分発の「八ケ岳高原列車5号(運転日:7月30日~8月31日、9月25日までの土曜・休日)」に乗り込むと、出発後は八ケ岳を右手に、その後、Uターンして左手に望みながら、ぐんぐん高度を上げていく。4駅進めば、そこは標高1345.67メートルというJRで一番高い野辺山(のべやま)駅! 下車して25分ほど歩くと、標高1375メートルに位置する「JR鉄道最高地点の碑」もあるので、山の絶景を楽しみつつ、ぜひ足を延ばしたい。周辺には「国立天文台 野辺山」や「野辺山SLランド」など観光スポットも豊富だ。
野辺山駅を後にし、車窓に高原野菜の畑や八ケ岳の景色が流れる小海線を下ってゆく。佐久平(さくだいら)駅に着いたら、15時46分発の北陸新幹線「あさま622号」で軽井沢駅までショートカット。16時12分発のしなの鉄道「ろくもん3号」に乗り換える。水戸岡鋭治氏デザインのこの観光列車は、赤銅色した外観や真田家の家紋である六文銭が渋い。長野県産の木材がふんだんに使われた内装は温かみのある雰囲気だ。いざ出発すると、大きくとられた窓からは、信州の山並みが! ソファ席や窓向きのカウンター席で、絶景をゆるりと堪能しよう。
「ろくもん」の魅力は“食”にもあり。「ろくもん1号」や「ろくもん2号」の食事付きプランを予約しておけば、高原野菜や果物など地元食材を盛り込んだ洋食のコースや、和食懐石料理を味わえる。今回は宿の夕食が控えているので食事なしの「ろくもん3号」(乗車券指定席プラン)で乗ったが、車内販売のオードブルやチーズを肴に地酒を堪能。ほろ酔いで気持ちよくなるころ、上田駅に停車。「ろくもん1号・2号」で到着すると、駅長さんが真田の赤い鎧をまとった戦国武将のいでたちで出迎えてくれるといううれしい歓迎も。
夕暮れ前、戸倉(とぐら)駅に着いたら、今宵は戸倉上山田温泉へ。50以上の源泉をもつ同温泉では、多くの宿で源泉かけ流しの湯を堪能できる。今晩お世話になる「千曲乃湯 しげの家」ももちろん源泉かけ流し。全身で美肌の湯を享受したら、宿自慢の夕食に舌鼓。「夏の鮎満喫会席プラン」など都心からの旅人の心をくすぐる美しい会席料理で、信州の幸を味わいたい。
なお今回の行程では、新幹線運賃・料金としなの鉄道(乗車券指定席プラン)は「青春18きっぷ」利用対象外なのでご注意を。
快速なので「青春18きっぷ」を乗車券として利用できる(+普通車指定席券520円<9月は320円。ただし、祝日およびその前日と振替休日を除く>)。運転日によっては、野沢菜のプレゼントなど、地元の方々による温かいおもてなしを受けることも。
・運転日:平成28年夏の青春18きっぷ利用期間は、8月20・21・27・28日、9月10日を除く土曜・休日と8月12日
・運転区間:しなの鉄道長野駅~飯山線十日町駅
・詳細:JR東日本 長野支社
しなの鉄道戸倉駅から長野駅まで北上したら、2日目前半のハイライトである飯山線観光列車「おいこっと」9時15分発に乗車。車両デザインは山村を走る飯山線らしく、茅葺き屋根の民家の襖(ふすま)をイメージ。窓には障子を想起させる格子のデザインがあしらわれており、田舎の実家に帰ってきたようにくつろげる。
その障子風の車窓から、千曲川沿いに続く山里の風景を眺めていると「アニメ『まんが日本昔ばなし』の世界だなあ」と独り言。と思ったら、車内案内の声は、なんと『まんが日本昔ばなし』の声優をしていた常田富士男さん!
およそ2時間半で列車は十日町駅に到着。まずは腹ごしらえと、西口から徒歩10分の「にし乃」に向かう。家族経営で温かな雰囲気の同店では、新潟・魚沼地方の郷土料理・へぎそばをいただける。「地元産の玄そば100%、天ぷらの食材も地元野菜が大半です。へぎそばならではの強いコシと豊かな風味を楽しんでください」とは店主・西野正男さん。
ここ十日町は3年に1回行なわれる「大地の芸術祭の里」で有名で、会期ではない今年もさまざまなアート作品を鑑賞できる。今回は徒歩で行ける「越後妻有(つまり)里山現代美術館キナーレ 明石の湯」へ。自由な発想の現代美術の作品たちを体感したら、1階の明石の湯でひとっ風呂。
十日町駅からは再び、観光列車をはしご。地元食材の肴とともに新潟の地酒を存分に楽しめるのんべえ垂涎の列車、「越乃Shu*Kura(コシノシュクラ)」の14時50分発に乗り込もう。まずは2号車のサービスカウンター「蔵守~Kuramori~」で5種の地酒を利き酒。する天(スルメの天ぷら)や鮭三兄弟(鮭トバ、イクラの醤油漬け、トロハラスの酒粕味噌漬け焼き)などの肴が酒を誘引して仕方がないが、何より酒樽をモチーフとしたスタンディングテーブルがお洒落なイベントスペースから望む流れる車窓が、最高のおつまみだ。
また、うれしいのが出発早々にはじまる、ミュージシャンたちの生演奏。ジャズやラテンの調べにうっとり耳を傾けていると、つい酔いも加速してしまう。
酒と音楽と風景の三位一体となった最高の酒場列車に後ろ髪を引かれつつ、長岡で途中下車し、16時32分発の水上行きに乗り換えて東京方面へ。うーん、まだまだ飲み足りない。かくなるうえは、おみやげに買った「越乃Shu*Kura オリジナル大吟醸酒」を開けちゃいますか!