『トレたび』は、交通新聞社が企画・制作・運営する鉄道・旅行情報満載のウェブマガジンです。
「青春18きっぷ」を利用するオトナ旅、今回は平成28年熊本地震の復興から立ち上がる九州が旅の主役。朝7時に博多駅を鹿児島本線で出発し、鳥栖(とす)駅で乗り換え。新鳥栖駅まで普通列車で向かったら、新幹線への乗り換え時間を使って朝食を。在来線ホームにある「中央軒」は、昭和31年に鳥栖駅で九州初の立ち食いうどんをはじめたお店。名物の「かしわうどん」をズズッとやれば、上品な薄味のつゆと甘辛く煮た鶏の風味が口中にしみわたり、夏なのに、つい飲み干してしまう旨さ。
新鳥栖駅から熊本駅までは、8時55分発の九州新幹線「つばめ315号」でショートカット。ここからは再び「青春18きっぷ」を利用する。9時45分発のD&S(デザイン&ストーリー)列車「SL人吉(ひとよし)」に乗ると、ローカル線の風情がググッと色濃くなっていく。八代(やつしろ)駅から先は「川線」の愛称でも知られている、球磨川(くまがわ)を車窓から望めて涼しげだ。エメラルドグリーンの川沿いを、煙を吐いて進むSLに揺られていると、SL製造時の大正時代の旅人と同じ風景を眺め、同じ列車の音を聞いているかのように錯覚してしまう。
瀬戸石(せといし)駅を過ぎたあたりで真っ赤な「第一球磨川橋梁」を渡り、一勝地(いっしょうち)駅へ。停車時間を利用してホームで販売される特産品のゆずようかんなどを物色しつつ、SLは人吉駅へと向かう。
球磨川で川魚が獲れる人吉は、うなぎの名店が多く、特にうなぎ料理専門店「しらいし」や「上村うなぎ屋」が有名。お昼に炭火でふっくらと焼いたうな重を頬張り、夏旅で消耗した体力をがっつりチャージ!
午後からも「青春18きっぷ」を利用して、乗り鉄にはたまらない観光列車のはしご旅! 人吉駅13時22分発のクラシカルなディーゼル列車「いさぶろう3号」指定席に乗車。車内では木のぬくもり溢れるボックスシートや、天井近くまで窓が切り取られた展望スペースで、車窓風景を楽しもう。
列車は人吉駅~吉松駅間の標高差約430メートルを上るため、2カ所のスイッチバックと半径300メートルのループ線が併用された珍しい区間を走る。とくに大畑(おこば)駅出発直後のスイッチバックに続くループ線は、ほかの路線ではなかなか体験できない列車の動きと、標高が上がるにつれ広がる景色、そして先人たちの鉄道建設技術に大感動。眼下に見える矢岳(やたけ)駅を過ぎ、「矢岳第一トンネル」を過ぎると、晴れた日にはえびの盆地越しに霧島連山を望める「日本三大車窓」の景色が待っている。
真幸(まさき)駅でもう一度スイッチバックし、列車が吉松駅に着いたら、「いさぶろう3号」とはここでお別れ。ここから鹿児島中央駅までは「青春18きっぷ」を使わずにショートカット!15時1分発の特急「はやとの風3号」に乗れば、17時12分発指宿枕崎(いぶすきまくらざき)線下り列車に間に合い、18時23分に指宿駅に到着する。
今晩宿泊する指宿温泉で、ぜひ体験したいのが砂むし風呂。20時30分まで受付する砂むし会館「砂楽」で楽しむのもいいし、指宿白水館に泊まって、館内で砂むし風呂を体験するのもいい。温かい砂の上に寝転んで砂をかけてもらえば、体の芯までぽかぽかに。血液循環と体内の老廃物デトックス効果が期待でき、今夜はぐっすり眠れそうだ!
指宿まで来たら、やはりJR最南端の駅をめざしたい。ということで指宿駅から、指宿枕崎線の下り列車7時21分発に乗車して、西大山駅へと向かう。コトコト揺られていると、西大山駅のさらに向こうに円錐の山容が美しい開聞岳(かいもんだけ)が! 駅のホームに降り立つと、そこには「JR日本最南端の駅」の碑。博多からはるばるやって来たという万感の想いがこみ上げる。駅前には「幸せを届ける黄色いポスト」と銘打たれた丸型ポストがあり、ここから恋人や家族へ手紙を出す人もいるとか。
駅前で立ち寄りたいのが「かいもん市場 久太郎」。指宿マンゴーを使ったジェラートやプリンなどの加工品、地元さつま漬などを扱う地産品の直売所で、みやげ品選びにもってこいだ。
9時2分発の指宿枕崎線上り列車で折り返し、鹿児島中央駅に着いたら、ぜひ乗車したいのが鹿児島市電運行100周年を記念して造られた観光レトロ電車「かごでん」。金曜・休前日・夏休み期間(水曜除く)は10時発の1日1便だが、土・日曜・祝日は10時・11時10分発の1日2便なので、今回の行程でも乗車できる。昭和30年代まで運転されていた木製電車をモチーフとした懐かしの路面電車で市街をめぐり、鹿児島ラーメンや氷菓の「白くま」など地元の味を堪能したい。
鹿児島中央駅に戻ったら、人気の駅弁を物色しつつ、再び「青春18きっぷ」で鹿児島本線の下り列車12時29分発に乗車。30分ほどで湯之元(ゆのもと)駅に着いたら、途中下車してレトロな田之湯温泉へ。小さな日帰り入浴施設ながら、単純硫黄泉の源泉かけ流しの湯を湯浴(あ)みできるとあり、地元の常連さんも多い。「注ぐ湯量で温度調整しています。熱いと透明、ちょっとぬるいと緑色がかり、もっとぬるくなると白濁する不思議な湯なんですよ」と話す管理人の秋嶺(あきみね)健さんとの会話も楽しい。
湯上がり後、川内(せんだい)駅まで北上したら、この旅もいよいよクライマックス。かねてから飲食付きパッケージプランを予約しておいた14時52分発の肥薩おれんじ鉄道の観光列車「おれんじ食堂」3便(クルージングディナー)に乗り込もう。こちらは、平成25年に運転開始された日本初の本格的な食堂列車。車窓に広がる海景色を眺めながら、沿線のレストランや宿が手掛ける、地産食材たっぷりの料理を味わえるのが魅力。途中、薩摩高城(さつまたき)駅などでは、「駅マルシェ」と銘打たれた特産品のふるまいや販売も行なわれており、地元の人々との交流もまた楽しい(開催駅は便によって変動)。
海を眺めながら、近海で獲れた海の幸を肴に地酒をいただくというすばらしい旅も、新八代(しんやつしろ)駅で終了。まだ18時半過ぎなので、ここからは「青春18きっぷ」を使って普通列車で博多駅へ帰るのもいいが、そこはやはりオトナの18きっぷ旅。新八代駅前の「八代よかとこ物産館」で地元のつまみ、駅の売店で焼酎を買い、九州新幹線で呑み鉄第2ラウンドへと向かうのはいかがだろうか。