『トレたび』は、交通新聞社が企画・制作・運営する鉄道・旅行情報満載のウェブマガジンです。
君とレールと、どこまでも。
この秋、夫婦あわせて88歳以上になった。だから記念に旅に出よう。いつか話したフルムーン夫婦旅。ガタンゴトンと列車に揺られ、寝顔を見つめレールの上なら、今よりきっと、素直になれるはず。
温泉が恋しい季節がやってきた。今回は全国JR線のグリーン車(一部例外をのぞく)に乗り降りできる「フルムーン夫婦グリーンパス」を利用して、湯宿をめぐる旅に出かけよう。夫婦2名で5日間の列車旅だ。
出発は博多駅9時21分発、特急「ソニック11号」グリーン車で別府駅へ。2+1列のゆったりした座席配置で、本革製の電動リクライニングシートが心地いい。別府駅では駅弁を買って、「九州横断特急64号」に乗り継ごう。木目調で落ち着く車内で昼食をいただく。午後は予約しておいた乗馬体験が待っているので、しっかりと腹ごしらえをしておきたい。
乗馬体験をするのは「エルパティオ牧場」。宮地駅で下車し、タクシーで約15分の距離にある。牧場は周囲128キロメートルにもおよぶ阿蘇の外輪山の一角に位置し、見渡す限りの大草原が広がる。乗馬メニューは全8コース。初心者から経験者までのメニューが揃うので安心だ。せっかくならばデニムとブーツを履いて(レンタル有料)、夫婦でカウボーイ&ガールを気取ってみよう。
心地よく汗ばんだ身体になったら、今すぐにでもドボンと温泉に浸かりたい。16時45分宮地駅発。豊肥(ほうひ)本線で2駅先の阿蘇駅へ向かう。今晩の宿「湯の宿 入船」へはタクシーに乗り、約15分で到着する。
「湯の宿 入船」は全7室の宿。外観は土塀と黒瓦で覆われた田舎の佇まいだが、館内に入ると一変。ロッジを思わせるような石積みの壁に暖炉があり、洒落(しゃれ)た空間が広がっている。荷をほどき、早々に向かいたいのはまず温泉。「入船」には男女別の内湯と露天風呂に加え、5つの貸切風呂があり、3種類もの泉質を楽しむことができるのだ。これぞ温泉大国である阿蘇の宿ならではの贅沢といえよう。
料理は、オーナーであるご主人が包丁を握り、腕を振るう。草花があしらわれた品々は、阿蘇の大地の力強ささえ感じさせる。野菜は自家栽培をしているだけに味が濃く、選りすぐりの肥後牛や馬刺しは、赤身と脂身の絶妙なバランスがたまらない。「小さな宿だから手を抜かない」というご主人渾身の手作り料理を心ゆくまで味わおう。
1泊2食 15,400円~
日帰り入浴:13~20時受付終了、不定休。大人500円、貸切風呂(50分)1,200円~
豊肥本線内牧駅前から産交バス10分の阿蘇市立体育館前下車、徒歩10分
阿蘇駅からタクシー乗車の場合は、要呼出
2日目は本州へ北上しながら、山陰の出雲をめざす。阿蘇駅前9時12分発の高速バスに乗って熊本駅へ向かい、11時28分発の山陽・九州新幹線「さくら550号」に乗車。乗り換え時間を気にしながら、新山口駅12時53分発特急「スーパーおき4号」に乗り込めば、あとは安心。山口県の山間部を横断して島根へ。津和野、益田からの車窓にはのんびりとした日本海沿岸の風景が。いつも見慣れない景色を夫婦揃って眺められるのも、フルムーンの鉄道旅ならでは。流れゆく風景をゆっくり楽しんでほしい。
目的地の出雲市駅に着くのは16時12分。今晩の宿「湯宿 草菴(そうあん)」がある荘原(しょうばら)駅は、各駅停車の山陰本線に乗り換えて2駅だ。駅に降り立ち、温泉街とは反対の国道沿いに「道の駅湯の川」を見つける。宿へは遠回りではあるが、明日の出発も早いので、道すがら特産品など買いに寄るのもいいだろう。
「湯宿 草菴」がある湯の川温泉は、神代の姫が恋人を慕う旅路で湯浴(あ)みをしたと伝えられる。泉質は低張性弱アルカリ性冷鉱泉で、肌を滑らかにする成分が入っていることから「日本三美人の湯」ともいわれている。「草菴」の楽しみは、趣が異なる風呂の数々。漆・檜(ひのき)・石・岩と異なる素材で造られた貸切風呂が4種類と、共同風呂が2種類。お目当ての風呂の空きを、宿泊棟の廊下に設置されたランプで確認したら、いざ風呂へ。一旦部屋に戻り、次の風呂が空いたら再び浸かりに。その繰り返しが湯めぐりのようで楽しい。
夕食は、飛騨から移築したという重厚な古民家で創作和食を堪能する。本当においしいものをちょうどよい量で出してくれるから、腹八分目でも満足する。寝る前にも温泉を存分に楽しめる配慮、というのも嬉しい。すべすべになった肌を確かめながら、布団に入ってみてほしい。
1泊2食 24,000円~(風呂なし客室)
日帰りプラン:11~14時30分。1名8,500円(昼食・部屋休憩・入浴含む。立ち寄り湯のみの利用はなし)
山陰本線荘原駅から徒歩10分
翌朝は朝風呂でシャキッと目覚め、早めに宿を出発。事前に予約しておいた松江の宍道(しんじ)湖「爽朝(そうちょう)クルージング」に参加しよう。サンセットクルーズも人気だが、朝もやのなか走るクルージングも神秘的。宍道湖の風物詩であるシジミ採り漁船が間近に見られるのも朝ならではの風景だ。
1時間のクルーズを楽しんだ後は、14時発の特急「やくも」に乗るまでの時間、松江の町歩きに出かけよう。城下町・松江には見どころがたくさんあるが、2時間あれば、松江駅周辺の和菓子屋めぐりがオススメだ。松江には7代目藩主で大名茶人だった松平治郷(はるさと)公(茶人名は不昧<ふまい>公)ゆかりのお茶屋や和菓子屋が数多くある。松江不昧公老舗会の参加店で好みの和菓子を購入し、お茶屋(中村茶舗)に持ち込めば、店内でお抹茶をサービスでいただける。
昼食は名物の「出雲そば」に決まりだろう。「出雲そば」といえば割子。丸い三段の器に冷たい蕎麦が盛られ、のりやネギ、大根おろしなどの薬味と、つゆの入った土瓶が添えられている。ソバの実を丸ごと挽くため、黒っぽく香りが強い麺が特徴だ。食べた器に残ったつゆを次の器に移し、薄くなったら足していく。酒処の松江だけに地酒を注文してもいいだろう。これも鉄道旅の楽しみだ。
松江駅14時発、特急「やくも20号」に乗り、ほろ酔い気分で岡山駅へ。新幹線「ひかり480号」に乗り換え、名古屋駅には19時33分着。一日も終わりに近いこんな日は、駅直結の「名古屋マリオットアソシアホテル」で一泊。旅も3日目。疲れた体には心地の良いベッドと熱いシャワー、そしてきらめく夜景が何よりもごちそうだ。
ツイン1室 41,000円~(2名利用時)
JR名古屋駅直結
旅も4日目。いよいよ北東へ進路をとり、めざすは山形県鶴岡市。日本海の幸や庄内平野の旨いものが揃う地だ。名古屋駅8時27分発の東海道新幹線「ひかり508号」に乗車し、東京駅で10時40分発の上越新幹線「MAXとき317号」に乗り換えれば、新潟駅12時43分到着。今回はグリーン車も乗り降り自由なゆったりフルムーン旅。快適で早い新幹線の旅を満喫しよう。
乗り換え駅の新潟でもおいしいものにありつこうと向かったのは、新潟駅ビルCoCoLo西館の「ぽんしゅ館魚沼釜蔵」。ランチメニューは南魚沼産のコシヒカリを使った「コシヒカリ御膳」をはじめ、海鮮や“和豚もちぶた”など地元の特産食材を堪能できる。宿の夕食も控えているが、多彩なメニューを目の前に迷ってしまう。とはいえ、お酒は別腹。新潟全蔵の日本酒が揃うなかから、「八海山」や「鶴齢」など魚沼を代表する銘柄で利き酒したい。
新潟駅発15時01分、特急「いなほ7号」に乗車し、鶴岡駅をめざす。E653系のグリーン車は、ゆったりとしたリクライニングシートでプライベート感あふれる。夫婦でまったりと日本海を眺めたい。16時51分、鶴岡駅着。そこから宿へは里山の風景を眺めながらバスで約25分。湯田川(ゆたがわ)温泉は、10軒ほどの宿が肩を寄せ合うように建つ静かな温泉街で、情緒があり、時代映画『たそがれ清兵衛』のロケ地となったのも頷ける。バスの本数が少ないため、タクシーの利用もいいだろう。
「九兵衛(くへえ)旅館」は全13室の宿。食の宝庫である日本海と庄内の幸を、四季折々のご馳走(ちそう)でいただける美食の湯宿だ。大浴場は2カ所あり、眺めもデザインも異なり楽しい。泉質はナトリウム・カルシウム-硫酸塩泉で、湯口には温泉成分がたっぷり付着している。宿泊者は、姉妹館「珠玉(たま)や」の貸切風呂を無料で利用できるほか、2軒ある共同浴場にも鍵を借りて自由に入浴できる。浴衣に下駄をつっかけて、二人でカランコロンと出かけよう。
1泊2食 16,350円~
日帰り入浴:11~14時、不定休(電話にて要確認)。800円
羽越(うえつ)本線鶴岡駅から湯田川温泉方面行き庄内交通バス25分の湯田川温泉下車、徒歩2分
鶴岡で迎えた5日目の朝。朝食をゆっくりといただき、9時30分発の庄内交通バスで鶴岡駅に向かう。昼食には宿のご主人おすすめの郷土料理「麦きり」を。羽越本線で隣駅の羽前大山(うぜんおおやま)駅からタクシー(呼出)で約10分。約140年続くという行列の人気店「寝覚屋半兵エ(ねざめやはんべえ)」でいただこう。「麦きり」とは冷たいうどんのことなのだが、甘めの汁と辛子でいただくというのが特徴。そのツルツルとした喉越しと豊かな風味に確かな職人技を感じる。
いよいよ今回のフルムーン旅の終着となる函館へ向かおう。14時21分、鶴岡駅発の特急「いなほ5号」で秋田駅へ。さらに秋田新幹線「こまち28号」に乗り継いで、盛岡駅へ。ここで約2時間の乗り換えタイムをとって、早めの夕食としよう。駅周辺には名物の冷麺やじゃじゃ麺の人気店が建ち並ぶが、今回は昼間に麺をいただいたので、盛岡の焼き肉とビールを楽しむのもいい。
19時37分。盛岡駅発、東北・北海道新幹線「はやぶさ29号」に乗車。青函トンネルを抜け、21時48分、新函館北斗駅着。さらに函館駅まで乗り継いで、今晩の宿がある湯の川温泉まではタクシーで約15分。
旅の最終日にはやはり温泉だ。「ホテル万惣(ばんそう)」がある湯の川温泉は、函館の奥座敷として愛されてきた名湯。その歴史は道内でも古く、開湯は江戸時代までさかのぼるという。泉質はナトリウム・カルシウム-塩化物泉で、体の芯まで温まる。寒い冬でも全天候型の露天風呂で楽しめ、長湯するにはちょうどいい。アロマスチームルームやシルキーバスなど、リラクゼーション施設も充実しており、多様な湯船も楽しめる。まさに居続けたくなるような「温泉リビング」宿。疲れをゆっくりとるにはもってこいだ。
翌朝は、函館湾と美しい町並みを見下ろせる「八幡坂」へ散歩に出かけてみよう。港には記念館として係留展示されている青函連絡船「摩周丸」が。今回の夫婦5日間の旅と時代の流れを感じつつ、思わず手をつなぎたくなる瞬間だ。
1泊2食 11,814円~
日帰り入浴:12~20時。1,230円
函館本線函館駅からタクシー約15分
JRでは、お二人の年齢合わせて88歳以上のご夫婦を対象に、JR線のグリーン車(新幹線「のぞみ」「みずほ」など一部列車、設備を除く)に有効期間内に乗り降りできる「フルムーン夫婦グリーンパス」を発売しています。
『トレたび』では、全国の素敵な「宿」や「夜景」など、ユニークな旅のテーマを掲げた新しい夫婦旅を提案。今年、ご夫婦そろって新しいフルムーン旅をはじめませんか?
【5日間用】 | 82,800円(一般用) |
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【7日間用】 | 102,750円(一般用) |
【12日間用】 | 127,950円(一般用) |
お二人のうちどちらかが70歳以上の場合、よりおトクな「フルムーン夫婦グリーンパス(シルバー用)」を利用できます。
山田祐子
株式会社 井門観光研究所 代表取締役
ホテルチェーンで現場経験を経て、企画業務を担当。その後、ホテル・旅館業界専門の人材紹介会社でキャリアコンサルティングに従事し、現在は観光コンサルティング会社 代表取締役。全国の宿の取材、調査などを行なう。
全国商工会連合会アドバイザー(観光分野)、All Aboutオフィシャルガイド(旅館、民宿・小宿)、テレビ東京「厳選いい宿」推進メンバー、温泉ソムリエ、きき酒師