『トレたび』は、交通新聞社が企画・制作・運営する鉄道・旅行情報満載のウェブマガジンです。
君とレールと、どこまでも。
この秋、夫婦あわせて88歳以上になった。だから記念に旅に出よう。いつか話したフルムーン夫婦旅。ガタンゴトンと列車に揺られ、寝顔を見つめレールの上なら、今よりきっと、素直になれるはず。
東京駅から東北・北海道新幹線「はやぶさ」に乗って函館方面へ向かう。平成28年3月に開通した新幹線。乗る瞬間、胸がわくわくする。新函館北斗駅からは在来線で特急「スーパー北斗」と快速列車を乗り継いで、今宵の夜景舞台・小樽へ。旅の1日目は、「北海道三大夜景」として知られる天狗山からの夜景と、小樽運河沿いの散策を楽しもう。小樽は山々に囲まれており、高台から夜景を眺められる場所が多い。なかでも天狗山は、札幌・函館と並ぶ「北海道三大夜景」のひとつと称され、冬になるとスキーも楽しめる。
「小樽天狗山ロープウエイ」の乗り場までは、小樽駅からバスで17分。30人乗りのゴンドラで天狗山山頂に着くと、まずスケールの大きい目の前の展望に圧倒される。展望台は全部で5カ所あるが、冬期のスキーシーズンは屋上展望台のみ利用できる。山頂の展望レストランが最も見晴らしがよく、おすすめだ。漆黒の石狩湾を囲むように広がる小樽の光。これぞ「北海道三大夜景」のひとつだ。山頂には、天狗の由来とされる「猿田彦大神」を祀(まつ)った天狗山神社や、鼻をなでると願いごとが叶うとされる「鼻なで天狗さん」など、パワースポットもある。
小樽は、洋館や史跡、海の幸グルメも充実した道内屈指の観光都市。路線バスが充実しており、市内の移動もスムーズなのがうれしい。夜景観賞後、天狗山から下山してそのまま小樽運河へ向かう。運河沿いに建てられた倉庫群は、22時30分までライトアップされている。この倉庫群を照らすガス灯もまた、小樽らしい夜景のひとつだ。明治時代、石炭やニシン漁の貿易港として繁栄した町の歴史を感じさせる。浅草橋やガス灯沿いの遊歩道からの観賞もいいが、人混みを避けるなら、西側にある中央橋がおすすめ。穏やかな光が幻想的で、じっと立ち止まって眺めていたくなるほどの美しさだ。冬になると、天気によっては雪景色とともに楽しめる日もあり、毎年2月には町全体がローソクの明かりでいっぱいになる「小樽雪あかりの路」も。ライトアップイベントにあわせて訪れるのもいいだろう。
夜景観賞を楽しんだ後は、今晩宿泊予定のホテル「グランドパーク小樽」へ。2階にある「マリーナバー&レストラン」で落ち着いた雰囲気のなか、美酒とともに本格的な握り寿司をいただこう。小樽港マリーナの明かりを眺めながらグラスを傾ければ、静寂のなか、ゆっくりと夜が更けるのを感じられる。
小樽天狗山ロープウエイ営業時間:9時30分~21時(営業時間は時期により異なる、運休期間あり)
ロープウエイ料金:大人1名往復1140円
函館本線小樽駅から北海道中央バス天狗山ロープウエイ線17分の天狗山ロープウエイ下車
「小樽天狗山ロープウエイ」の運行は出発前にご確認ください。
旅の2日目は関東へ戻って夜景観賞を。札幌駅から特急「スーパー北斗」、新函館北斗駅から北海道・東北新幹線「はやぶさ」に乗車。東京駅まで最速4時間2分の長旅を新幹線グリーン車でゆったり楽しむ。到着する頃にはすっかり日も暮れ、絶好の夜景時間に。東海道本線で川崎駅へ向かい、駅からは路線バスの旅で工場夜景めぐりを楽しもう。
工場夜景ブームの発祥の地として知られる川崎臨海部には、工場夜景スポットが多数あり、全国から夜景ファンが集まるほど。川崎駅からは路線バスが充実しており、大半の観賞場所を乗り継いで回れることは、意外と知られていない。SuicaなどICカードを利用すれば、川崎市バス「IC 1日乗車券」(510円)で、1日で複数の工場夜景スポットをめぐれるのだ。
工場夜景をめぐるルートは複数あるが、定番スポットを効率よく回るなら、川05系の東扇島循環バスがおすすめ。まずは「東扇島東公園」へ向かい、公園の潮風デッキで夜風を浴びながら、対岸の製油所を中心とした工場夜景を眺めてみよう。工場までやや距離があるが、見晴らしがよく開放感もあり、フットライトで照らされたデッキでゆったりと夜景散歩を楽しめる。寒い時期に屋内から眺めたいなら、「東扇島東公園前」の4つ手前にある停留所「川崎マリエン前」で下車して、「川崎マリエン」展望室に行くのもおすすめだ(入場無料、最終入場~20時30分)。
再びバスに乗り、次の工場夜景へ。千鳥町内の「日本触媒前」で下車。南西方向へ10分ほど歩くと、フェンスを挟んで貨物ヤードがあり、線路の奥にある化学工場群を間近で見渡せる。夜空遠くまでプラントが建ち並び、壮大に広がる様は圧巻だ。反対側にはフレアスタックと呼ばれる煙突から炎が見え、燃え上がる様子やプラントを眺めていると、まるで近未来の世界に引き込まれたような感覚を味わう。ちなみに川崎駅から千鳥町へ直接向かう場合は、川04系の市営埠頭行きバスに乗車すると、ほとんど歩かずに貨物ヤード前までたどり着ける。
工場夜景観賞を楽しんだ後は、腹ごしらえを。バスに乗って「塩浜営業所前」で川40系に乗り継ぎ、川崎のコリアタウンへ。「セメント通り」と呼ばれる500メートルほどの通り沿いに焼肉店や韓国食材店が並ぶエリアだ。今晩は東側入口すぐにある創業50年以上の老舗レストラン「焼肉 西の屋」へ。メニューも豊富にあり、ゆったりとしたお座敷で本場の焼肉を楽しもう。川崎近郊在住なら今晩は自宅へ戻ってもいいし、シティホテルで一泊してもいいだろう。
24時間見学可、見学無料
東海道本線川崎駅から川崎市バス川04系市営埠頭行きバス約20分の市営埠頭下車すぐ
または川05系東扇島循環バス約15分の日本触媒前下車、徒歩10分
旅の3日目は関西へ。新横浜駅から東海道新幹線「ひかり」グリーン車で新大阪駅へ向かう。天気のよい日には進行方向右側の車窓から富士山を眺めるのもお忘れなく。在来線に乗り換え、三ノ宮駅前でレンタカーを借りる。今宵は「日本三大夜景」のひとつといわれる神戸の「摩耶山(まやさん)」までドライブして、1000万ドルの夜景を眺めよう。
「日本三大夜景」といえば、北海道・函館山、神戸・摩耶山、長崎・稲佐山(いなさやま)。「夜景ブランド」として有名な三景だが、そのいわれははっきりしていない。そこに夜景の神秘的な魅力も感じる。なかでも、神戸の摩耶山は標高699メートルと最も高く、町の明かりも群を抜いて多い。そのため「日本一美しい夜景」といっても過言ではないほどだ。
摩耶山天上寺前の有料駐車場にレンタカーを停め、懐中電灯を持って10分ほど坂道を歩く。すると「掬星台(きくせいだい)」と呼ばれる展望台にたどり着く。デッキからは神戸と大阪の市街地の大パノラマが視界一面に広がる。まるで宝石箱をひっくり返したかのような光の絨毯(じゅうたん)に、夫婦で思わず感嘆と驚きの声をあげてしまう。
続いて「六甲ガーデンテラス」へ。レストランや展望台、みやげ物店などが充実した六甲山の観光施設に立ち寄ろう。カジュアルなレストランからジンギスカンの専門店までそろうが、落ち着いた大人の雰囲気を楽しむなら「グラニットカフェ」がおすすめだ。温かみのあるモダンな空間で創作料理や手作りのスイーツをいただこう。窓に面したテーブル席もいいが、寒くなければ店外のテラス席もいい。夜景とディナーを心ゆくまで楽しめる。
さらに「自然体感展望台 六甲枝垂れ」では、四季を通して幻想的な六甲山光のアート「Lightscape in Rokko」を体験してみよう。展望台全体を覆う檜(ひのき)のフレームに優しく包まれながら、神戸の夜景を眼下に見渡す。最新のLED照明で時が経つごとに色彩の変化も楽しめるので、ここでは時間が許す限り、ゆっくりと過ごしたい。
24時間見学可、見学無料
摩耶山天上寺前駐車場:一日500円
東海道本線三ノ宮駅からレンタカーで表六甲ドライブウェイ経由40分、有料駐車場から徒歩10分
または三ノ宮駅から市バス約25分の摩耶ケーブル下下車、まやビューライン(ケーブル・ロープウェー)星の駅下車すぐ
「まやビューライン」の運行は出発前にご確認ください。
旅の4日目は本州から四国へ。新神戸駅から山陽新幹線「ひかり」で岡山駅に向かい、特急「しおかぜ」で四国・今治(いまばり)へ。日暮れ前に「来島(くるしま)海峡大橋」を見渡せる絶景スポット、亀老山(きろうさん)展望公園へ向かおう。
今治といえば、しまなみ海道のサイクリングコースやタオル産地として有名だが、四国屈指の美しい夜景が楽しめるエリアだ。年間を通して「来島海峡大橋」のライトアップが行なわれ(点灯日はスケジュールによる)、多くの観光客や写真愛好家が夜景を楽しみに訪れる。
「来島海峡大橋」の夜景を眺められる観光名所では、アクセスがよい「糸山公園展望台」が有名だが、絶景を楽しむなら標高の高い「亀老山展望公園」がおすすめ。今治駅からレンタカーで25分ほどかかるが、道中のドライブも楽しめる。公園には展望台が整備されているのだが、展望台手前の道路脇にあるテラスが人気。眺望がすばらしく、多くの観賞者で混雑するので、夕暮れ前にベストポジションを確保したい。逆に混雑を避けたいなら展望台に向かうとよいだろう。
太陽が沈み、西の空に夕焼けの赤と青色のグラデーションが広がる。ライトアップされた「来島海峡大橋」とみごとに調和する瀬戸内海の夕景。瀬戸内しまなみ海道のなかでも最高の絶景を目に焼き付けたい。暗くなるにつれて、南西側に今治市街地の明かりが徐々に浮かぶのも美しい。ライトアップ終了時まで、ゆっくりと楽しもう。
レンタカーで今治市街に戻り、お次は水城夜景を眺めよう。「日本三大水城」の一つとして知られる「今治城」は全国でも珍しい海水を引き込んだ城だ。夜は暖色系のライトで城郭が照らされ、お濠には水面に反射した光の映り込みが美しい。風の弱い日には「逆さ今治城」も見られる。眺める方向によって景観の変化も楽しめるので、外郭に沿って歩きながら楽しむのもよいだろう。
そして本日の最後に、今治駅前にある「しまなみ天然温泉 キスケの湯」へ。深夜24時まで営業の天然温泉銭湯だ。11種類あるお風呂に浸かって旅の疲れを癒やす。有馬温泉や熱海温泉と同じナトリウム塩化物泉の湯は、保温効果を期待でき、夜風に冷えた体を芯から温めてくれる。旅も4日目を終え、ゆっくりと疲労回復したいところ。館内には地元愛媛産の食材を使ったレストランもあるので、夕食には旬のメニューをたっぷりいただこう。
24時間見学可、見学無料
駐車場無料
予讃線今治駅からレンタカーで瀬戸内しまなみ海道今治IC・大島南IC経由約25分
旅の最終日となる5日目は、四国から九州へ。特急「しおかぜ」で岡山駅まで戻り、山陽新幹線「ひかり」に乗車。夕方には博多駅に着き、特急「かもめ」を乗り継いで一路、長崎へ。車窓越しに見える有明海が美しい。長崎駅からはバスとロープウェイを乗り継ぎ、「日本新三大夜景」として知られる「稲佐山」で100万ドルの夜景を眺めよう。
長崎は、鎖国時代からオランダや中国などとの海外貿易で栄えた地。「グラバー園」や「大浦天主堂」など歴史的建造物が残る。また九州最大の夜景観光都市でもあり、「稲佐山」や「鍋冠山(なべかんむりやま)」など高台から見下ろせる夜景スポットが市街地から近いところにあるのも特徴だ。また「ヴィーナスウィング」の愛称で知られる「女神大橋」のライトアップも人気が高い。
長崎駅から「稲佐山」へは約25分。ロープウェイに乗ると、ゴンドラからも360度の大パノラマが楽しめる。山頂には展望台があり、寒い時期は建物内からも夜景が楽しめるのも快適だ。だがここは、ガラス越しに見るよりも屋上での観賞がおすすめ。LEDライトが展望台の床面に埋め込まれ、幻想的な雰囲気のなか、360度パノラマ視界が広がる。とくに東方向の長崎港を中心とした町の明かりは息をのむほど美しい。山麓に広がる丘陵地帯にまで町の明かりが煌めき、立体的に見えるのが長崎の夜景の特徴だ。眺めていると、まるで二人とも光に包まれているかのような不思議な感覚に魅了される。
そして、今回の夜景めぐりフルムーン旅も最終章。ここはご当地グルメ「長崎ちゃんぽん」で、冷えた体を温めよう。明治時代、老舗中華料理店「四海楼(しかいろう)」のオーナーが中国から来た留学生に、お腹いっぱい食べさせてあげようと考案したのが始まりとされる。太麺と白濁のスープの上に、刻んだ野菜と肉がたっぷり盛られ、豚骨と鶏ガラでとられたスープは胃にやさしく染み渡る。
また、平成29年1月28日~2月11日には「長崎ランタンフェスティバル」も行なわれる。中国の旧正月(春節)を祝う行事として始まった祭りだが、今や毎年100万人以上が訪れる、長崎の「冬の風物詩」だ。約1万5000個ものランタンで町が華やかに彩られる景色も、冬の長崎ならでは。夜景フルムーン旅のフィナーレを盛り上げてくれるだろう。
長崎ロープウェイ:9~22時(定期整備のため平成28年12月7~16日運休)、大人1名往復1230円
長崎本線長崎駅から無料循環バス8分の長崎ロープウェイ淵(ふち)神社駅下車、長崎ロープウェイ5分
市内5つのホテルを循環します。乗車には乗車整理券が必要です。
「長崎ロープウェイ」の運行は出発前にご確認ください。
JRでは、お二人の年齢合わせて88歳以上のご夫婦を対象に、JR線のグリーン車(新幹線「のぞみ」「みずほ」など一部列車、設備を除く)に有効期間内に乗り降りできる「フルムーン夫婦グリーンパス」を発売しています。
『トレたび』では、全国の素敵な「宿」や「夜景」など、ユニークな旅のテーマを掲げた新しい夫婦旅を提案。今年、ご夫婦そろって新しいフルムーン旅をはじめませんか?
【5日間用】 | 82,800円(一般用) |
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【7日間用】 | 102,750円(一般用) |
【12日間用】 | 127,950円(一般用) |
お二人のうちどちらかが70歳以上の場合、よりおトクな「フルムーン夫婦グリーンパス(シルバー用)」を利用できます。
岩崎拓哉
夜景写真家
1980年大阪府出身。神奈川県川崎市在住。法政大学経済学部卒。2003年より夜景写真家として活動。13年間で日本全国および海外2000カ所以上撮影。Webエンジニアとしての経験も活かし、国内最大級の夜景情報サイト「夜景INFO」を開設。現在は旅行会社主催の夜景撮影ツアー講師や、テレビなどメディア出演にも力を入れている。
著書に『プロが教える夜景写真 撮影スポット&テクニック』(日経ナショナル・ジオグラフィック社)、『ゼロから学ぶ工場夜景写真術』(アスペクト社)。