『トレたび』は、交通新聞社が企画・制作・運営する鉄道・旅行情報満載のウェブマガジンです。
君とレールと、どこまでも。
この冬、夫婦あわせて88歳以上になった。だから記念に旅に出よう。いつか話したフルムーン夫婦旅。ガタンゴトンと列車に揺られ、寝顔を見つめレールの上なら、今よりきっと、素直になれるはず。
話題の特急列車と観光列車にたくさん乗りたい……! そんな乗り鉄派夫婦におすすめする、フルムーン列車旅。まずは平成28年3月に開業した北海道新幹線に乗車すべく、東京駅へ。8時20分発、新函館北斗駅行き東北・北海道新幹線「はやぶさ5号」の客となる。今回の行程では、JR東日本の新幹線に長時間乗るのは1日目のみ。ここは贅沢に、特急料金とグランクラス料金を払って「グランクラス」を利用するのもいいだろう。
11時21分、新青森駅発。列車はそのまま北海道新幹線区間に乗り入れる。青函トンネルを快調に駆け抜けると、いつの間にか北の大地を走っている。高い防音壁に阻まれ、津軽海峡は一瞬しか見えなかったが、鉄道ファンにとっては感慨深い瞬間だ。さらにトンネルを抜けると、右手に函館山が見えてきた。12時22分、新函館北斗駅到着。ホームをスムーズに移動して、札幌行き特急「スーパー北斗11号」グリーン車に乗車。大沼・小沼、駒ケ岳、内浦湾など変化に富んだ函館本線・室蘭(むろらん)本線の車窓を眺めつつ、16時4分、札幌駅到着だ。
すっかり日が暮れ「ホワイトイルミネーション」に彩られた札幌の町。今夜は大通りからほど近い、平成28年に開業した「ラ・ジェント・ステイ札幌大通」が滞在先だ。和モダンで居心地のいい部屋で寛ぎ、ホテル自慢の天然温泉で疲れを癒やそう。
東北新幹線東京駅~北海道新幹線新函館北斗駅
862.5キロメートル
2日目は札幌から本州・東北へ。1日目と少しでも違った車窓風景を狙って、8時39分、札幌発「スーパー」でない特急「北斗6号」に乗車。連結されたハイデッカー車両のグリーン車席に座る。同じルートでも高いところから眺めると、違った景色が味わえる。今回は「フルムーン夫婦グリーンパス」(5日間)の利用だが、行程に余裕がある場合は、小樽・ニセコ経由の函館本線(通称・山線)ルートもいい。11時4分、長万部(おしゃまんべ)駅発。事前予約しておいた「かにめし本舗かなや」の駅弁「かにめし」を二人で頬張る。JR北海道の車内販売サービスとして、3日前までに予約(JR北海道 客室乗務員センター TEL.011-261-6819)すれば、乗車する列車座席まで届けてくれるのだ。
12時44分発、新函館北斗駅発の北海道・東北新幹線「はやぶさ22号」グリーン車に乗車。E5系とは違ったH5系車体の帯色「彩香パープル」や車内カーペットの色などを観察しておこう。13時50分、およそ1時間で新青森駅着。急いで在来線ホームへ向かい、13時58分発の五能線観光列車「リゾートしらかみ4号」に乗り込む。平成28年7月運転開始のハイブリッド車両の新型リゾートしらかみ「?(ブナ)」編成だ。
さぁ、ここからは日本海・冬景色だ。鰺ケ沢(あじがさわ)駅を通過すると、右手に寒風荒(すさ)ぶ日本海が見えてきた。奇岩や切り立った岸壁、天候がよければ水平線に沈みゆく夕陽を、心ゆくまで眺めて過ごす。千畳敷(せんじょうじき)駅では15分の停車時間に、少しだけ海岸散策を。18時56分、秋田駅着。外はすっかり真っ暗だ。
奥羽本線新青森駅~秋田駅(五能線経由)
243.7キロメートル
3日目は上信越・東海エリアへ。秋田駅9時15分発、特急「いなほ8号」でスタートする。「フルムーン夫婦グリーンパス」で利用できる「いなほ」グリーン車にはラウンジスペースがある。羽越(うえつ)本線の越後寒川駅を過ぎたあたりから、日本海沿いに続く海岸景勝地「笹川流れ」を眺めよう。冬の荒波と岩礁や洞窟など、この季節ならではの景観美を楽しむ。海側の席(進行方向右側)が予約できなくても、ラウンジスペースから展望できる。
12時57分に新潟駅到着後、小1時間の休憩でランチを。次は14時2分発の上越新幹線「とき454号」狙いだが、これは普通の車両ではない。平成28年4月にデビューした「現美新幹線(GENBI SHINKANSEN)」だ。6車両すべてに、現代アーティストによる個性的な作品がずらりと並ぶ“走る美術館”なのだ。13号車にはカフェもあるので、午後のティータイムに美術鑑賞しながら過ごしてみよう。「とき454号(現美新幹線)」は運転日に限りがあるので、JR東日本ホームページなどで確認を。
もっと乗っていたいと思うが、およそ1時間も経たないうちに終点・越後湯沢駅着。次は15時8分発の2階建て車両、上越新幹線「Maxとき326号」で大清水トンネルを抜け、山岳風景に見とれるうちに、高崎駅着。16時2分発の北陸新幹線「あさま615号」に乗り換え、長野駅をめざす。軽井沢駅を出た後、右手に雄大な浅間山が見えてきた。
長野駅からは、大きく切り取られた窓が自慢の383系、特急「ワイドビューしなの22号」に乗車。時刻は17時過ぎ、日が暮れて通過する姨捨(おばすて)駅付近では、「日本三大車窓」のひとつ、千曲(ちくま)市の町明かりを望む夜景が見られた。島崎藤村『夜明け前』ではないが、まさに「木曽路はすべて“闇”の中である」。20時5分、名古屋駅着だ。
羽越本線秋田駅~白新線新潟駅
273.0キロメートル
旅の4日目。9時19分、名古屋駅発の東海道新幹線「ひかり」で新大阪へ。木曽川・長良川・揖斐(いび)川の三本の大河を渡ると、あたりは関ヶ原だ。車窓から伊吹山が見えると嬉しくなる。10時26分、新大阪駅着。ノーズのとんがった、個性的なフォルムの新幹線「こだま741号」へとゆっくり乗り換える。今も大人気の山陽新幹線500系だ。平成27年、全線開通40周年を記念して大変身を遂げ、エヴァンゲリオン新幹線「500 TYPE EVA」として運行している。11時32分、新大阪駅発。事前予約で実物大コックピット搭乗体験をしたり、特別内装車(2号車)や展示・体験ルーム(1号車)を見学したりで、あっという間に12時39分、岡山駅到着である。「500 TYPE EVA」は運転日に限りがあるので、JR西日本ホームページなどで確認を。
岡山駅からはJR四国の列車を“乗り鉄”旅。快速「マリンライナー」先頭車のグリーン車に乗り、瀬戸大橋を渡る。高松駅からは予讃線を特急「いしづち」で丸亀駅へ、帰りは15時28分発、岡山行き特急「しおかぜ」で。平成26年デビューの新型車両8600系も走る区間である。
岡山駅からは鹿児島中央行きの山陽・九州新幹線「さくら」に乗車。本日最後の“乗り鉄”旅は熊本までの約2時間30分、のんびりと過ごしたい。宿泊は駅直結の「JR九州ホテル 熊本」で。併設のレストラン「うまや熊本店」で、馬刺しや辛子レンコンなど、地のものをたっぷりいただこう。
山陽新幹線新大阪駅~岡山駅
180.3キロメートル
乗り鉄派夫婦におすすめする、フルムーン列車旅。最終日は、九州が舞台だ。まずは観光列車のビックターミナルである熊本駅から出発する。肥薩線の赤い観光列車「いさぶろう1号」で球磨(くま)川に沿い、人吉(ひとよし)駅までたどる。駅で少しの間停車した後、吉松駅までは通称・山線といわれる難所が続く。大畑(おこば)駅のループ線とスイッチバック、矢岳(やたけ)駅を過ぎて目に入る霧島連峰の絶景。これも「日本三大車窓」のひとつだ。真幸(まさき)駅でのスイッチバックとホームの「幸せの鐘」……。いつ乗っても見どころ多数の路線である。
吉松駅からは、真っ黒色でシックな車体の特急「はやとの風1号」に乗り継ぐ。途中、嘉例川(かれいがわ)駅では5分間停車する。築100年を超える風格ある木造駅舎を見学しよう。隼人(はやと)駅から日豊(にっぽう)本線に入り、錦江湾にさしかかると、噴煙たなびく桜島が車窓にいきなり現われる。
鹿児島中央駅、12時51分着。5日間で新幹線が走る日本最西端まで来た。このままゆっくりしたいところだが、きっぷの期限がこの日限りなので、上りの山陽・九州新幹線「さくら」に乗車。新大阪駅で東海道新幹線「ひかり」に乗り換え、最後の長い乗車旅は続く。21時10分、東京駅着。これにて北へ南へと日本縦断した5日間の“乗り鉄”旅も、無事終了である。
肥薩線吉松駅~鹿児島本線鹿児島中央駅
68.5キロメートル
JRでは、お二人の年齢合わせて88歳以上のご夫婦を対象に、JR線のグリーン車(新幹線「のぞみ」「みずほ」など一部列車、設備を除く)に有効期間内に乗り降りできる「フルムーン夫婦グリーンパス」を発売しています。
フルムーン旅行とは、このおトクなきっぷを使った旅行のこと。『トレたび』では、全国の素敵な「宿」や「夜景」など、ユニークな旅のテーマを掲げた新しい夫婦旅を提案。ご夫婦そろって新しいフルムーン旅をはじめませんか?
【5日間用】 | 82,800円(一般用) |
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【7日間用】 | 102,750円(一般用) |
【12日間用】 | 127,950円(一般用) |
お二人のうちどちらかが70歳以上の場合、よりおトクな「フルムーン夫婦グリーンパス(シルバー用)」を利用できます。
野田隆
旅行作家
1952年、名古屋生まれ。幼少時、近くを走る蒸気機関車D51を見て育つ。早稲田大学大学院修了。長年、都立高校で教鞭を執りつつ、欧州や日本の鉄道旅行の著作を発表。早期退職後、旅行作家となる。日本旅行作家協会理事。著書に『テツ道のすゝめ』(中日新聞社)『テツに学ぶ楽しい鉄道旅入門』(ポプラ新書)、『にっぽん鉄道100景』(平凡社新書)など20冊。All Aboutなどインターネット記事執筆、NHK-BSなどテレビ出演もこなす。