新青森駅から奥羽本線の普通列車で約40分、弘前駅に着く。弘前の街は、津軽地方を統一した津軽氏の住む城として、慶長16年(1611)に完成した弘前城を中心に、津軽地方の政治、経済、文化の要として発展してきた。このため、津軽氏の菩提寺の長勝寺や「東北一の美塔」といわれる最勝院五重塔、33の寺院が建ち並ぶ「禅林街」など、藩政時代の面影を残す名所旧跡が市内のあちこちに残る。
弘前城築城400年の節目の年を迎える平成23年は、1年を通じてさまざまなイベントが予定されている。そのオープニングを飾るのが、この冬。大晦日から来年元旦にかけて、天守閣のある弘前公園ではライトアップや花火の打ち上げなどで新年を祝う。
また、平成23年2月10~13日に行なわれる「弘前城雪燈籠まつり」では、弘前公園内に大小さまざまな燈籠や雪像が置かれ、ほのかな灯りがともされたミニかまくらが、冬ならではの幽玄の世界を演出する。「弘前城天守閣」をテーマとした大雪像や、50mにわたり錦絵が並ぶ「津軽錦絵大回廊」も見逃せない。
こうしたイベントに訪れることができなくても、冬の弘前では、雪あかりとライトアップの共演を毎日見ることができる。
12月1日~2月28日の日没から午後10時まで、弘前公園周辺の文化財や洋館をライトアップし、街路をイルミネーションで彩る「エレクトリカル・ファンタジー」が行なわれるからだ。クリスマスやバレンタインデー、年末年始にはオールナイトで点灯するほか、光に照らされた洋館をバックに、ゴスペルのライブも予定している。凍てつく大地に浮かびあがる建物は、和洋問わず透明感にあふれ、なんともロマンチックな雰囲気に包まれる。しっかりと防寒した上でぜひ街を歩きたい。
旧国立大学の弘前大学を擁する“学都”、そして旧陸軍第八師団があった“軍都”としての歴史を持つ弘前には、明治、大正期に建てられた赤レンガの建物やゴシック様式の教会などの洋館も多い。なかには、ゴシック様式を基調とした教会の内部に襖や畳が使われていたり、説教台が津軽塗りだったりと、和洋折衷の独特な建築物もある。そんな洋館めぐりもまた楽しい。
洋館が残る弘前には、フランス料理やスイーツが食べられるお店も多い。地元産の食材を使い、シェフが工夫を凝らした数々のメニューは、気軽に食べられるだけでなく、その味わいでも人気だ。また、弘前は人口比で横浜市や東京・世田谷区をしのぐ数のお菓子屋さんがある「スイーツ激戦地」にもなっている。
一方で、津軽の風土に根ざした郷土料理、家庭料理もある。細かく切った根菜や山菜、豆腐を煮込み、醤油や味噌で味付けした冬の定番料理・けの汁や、ホタテの貝殻を器にして味噌と卵を焼いた貝焼き味噌などを「津軽料理遺産」として提供する店、3代もしくは70年以上、地元で大衆食堂として愛されてきた店「津軽百年食堂」などでは、津軽らしい素朴な料理が食べられる。
フレンチから郷土料理まで多彩な「食」が楽しめるのも、新しいもの好きな市民性を持つ弘前ならではかもしれない。
さらに、弘前駅から弘南鉄道弘南線で約30分。終点の黒石駅まで足を延ばしてみよう。
藩政時代から津軽藩と南部藩を結ぶ交通の要衝地として栄えた黒石市を代表する「こみせ通り」は、住宅や商店の外側に取り付けられたアーケード街。雪の多い地域ゆえの工夫で、文化3年(1806)創業の鳴海酒造店や大きな杉玉が目印の酒蔵・中村亀吉、国指定の重要文化財の商家「高橋家」、津軽三味線のライブを行なう土産物店などが軒を連ねる。藩政時代にタイムスリップしたかのような情緒ある風景は必見だ。2月12・13日には、ミニかまくらと雪だるまに1000本のろうそくを灯す「冬のこみせまつり」が行なわれる。
黒石に行ったら、ぜひ食べたいのが「黒石やきそば」と「つゆやきそば」。人口約4万人弱の町に、やきそばを出す店が70軒もあるという黒石市の名物で、太い平麺とウスターソース味が特徴。かつては、子どものおやつとして食べられていたご当地グルメだ。
温湯(ぬるゆ)温泉、落合温泉、板留(いたどめ)温泉からなる黒石温泉郷は、黒石駅から車で約15分。古くからの湯治場として栄え、それぞれ効能が異なるので、自分にあった温泉を選んでみよう。