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ニッポン“道の記”草子 歴史とロマンを求めて 古道てくてく歩きの旅|第4回 越中飛騨街道 ブリを運ぶ道を往く

富山駅からブリが揚がった岩瀬浜へ
北陸新幹線 富山駅
北陸新幹線富山駅は、東京~金沢間を走る「かがやき」「はくたか」が停車するほか、富山~金沢間を往復するシャトルタイプの「つるぎ」も発着。南口新駅舎には新幹線の中央改札口のほか、あいの風とやま鉄道の改札口、JR高山本線の改札口(仮設)が設置されている。
北前船廻船 問屋森家 
国指定重要文化財の森家は、明治11年(1878)頃建築の豪壮な佇まいを残す東岩瀬廻船問屋型町家。名物ガイドの解説付き。開館時間:9:00~17:00(入館は~16:30) 休:12月28日~1月4日 入場料:大人100円 TEL.076-437-8960
岩瀬の町の風景
JR富山駅北口から富山ライトレールに乗り終点まで行くと、越中ブリが水揚げされていた岩瀬浜へ着く。河口の大漁橋付近には釣り人も多く、岩瀬大町には今も北前船で栄えた重厚な廻船問屋の町並みが残る。
岩瀬曳山車祭り 
曳き合いの激しさから「けんか山車」という異名で親しまれている伝統ある岩瀬曳山車祭。曳き合いは例年5月中旬に行なわれる。
TEL.076-437-9715(富山市岩瀬地区センター)
特産の白エビ料理
「富山湾の宝石」とも称される富山特産の白エビ。市内の飲食店では、お刺身や昆布ジメ、かき揚げ料理など、ご当地ならではの味が楽しめる。漁期は4~11月。
磯料理 松月 TEL.076-438-1188 食堂 天保TEL.076-438-0038
呉羽山公園展望台 
富山市の西部に位置する呉羽山公園にある展望台。東には立山連峰の大パノラマを一望でき、北には富山湾を隔てて遠くに能登半島まで望むことができる。山裾にある長慶寺には五百羅漢が並ぶ。
ブリ街道と呼ばれる由来
 富山市と高山市を結ぶ越中飛騨街道は、富山側では飛騨街道や高山道、飛騨側では越中街道と呼ばれた。旧街道の道筋は現在の国道41号線にほぼ沿っており、富山城下から笹津を経て神通川沿いに南下し、富山と岐阜との県境である猪谷の関所に至った。
 猪谷からは宮川沿いを往く越中西街道(猪谷-蟹寺-打保-文道寺峠-古川-高山)と高原川東岸を往く越中東街道(東猪谷-船津-巣山-大坂峠-今村峠-高山)とに分かれ、2つの道は現在の高山市国府町で合流し、高山城下に入った。
 ところで越中飛騨街道では、富山から米や塩、魚などの生活物資が運ばれていたが、その代表的なものが塩ブリであった。飛騨地方では古来ブリはお正月に欠かせない縁起物で、内陸の人々は雪が舞い始めると、日本海からやってくるブリを心待ちにした。富山湾で水揚げされたブリはその日のうちに塩ブリに加工され、高山まで32里の道のりを歩荷(ぼっか)によって運ばれたのである。ブリの輸送が始まったのは江戸中期頃からといわれるが、このことから越中飛騨街道は、ブリを運ぶ道すなわち「ブリ街道」と呼ばれた。さっそく、その出発点となる富山湾の岩瀬浜を訪ねてみよう。
北前船で栄えた廻船問屋の家並みが残る港町
 岩瀬は江戸時代、加賀藩の御蔵が置かれ、上方へ米を運ぶ荷出し港として、また北海道からの昆布やニシン、肥料の輸入港として栄えた港町である。岩瀬を行き来した北前船は船の往復分の倍々(売買)儲かることから地元では「バイ船」と呼ばれ、往復儲かることから「のこぎり商売」ともいわれるほどの羽振りの良さであった。この交易で財をなしたのが廻船問屋の森家。ロシアの琥珀から屋久杉、小豆島産の一枚岩など全国の贅を集め、建築に3年の歳月をかけた家屋からは、往時の繁栄をうかがい知ることができる。こうした北前船の航海安全や商売繁盛の祈願所であった岩瀬諏訪神社では、毎年5月に岩瀬曳山車祭が開催され、13基の曳山車が勇壮に町を練り歩く。岩瀬散策の後は、富山湾特産の白エビ料理を味わおう。白エビは淡いピンク色の透き通った美しい姿から「富山湾の宝石」とも称される小さなエビで、神通川や庄川河口などの海谷で捕獲されるが、漁業が成り立つほど獲れるのは全国でもここだけだという。
 西富山に戻り、呉羽山からの絶景を楽しんだら、長慶寺を訪れてみよう。境内裏の山の斜面には、廻船問屋の黒牧屋善次郎が、海難事故の犠牲者の供養に建てた五百羅漢が残されている。佐渡の石工が彫り、北前船で運ばれた約500余りの石仏を、山の中腹に建立するのもまた、ひと仕事であっただろう。
猪谷の関所を越えて、高山へ至るみち
薬種商の館 金岡邸
江戸末期の金岡薬店を復元した薬の資料館、金岡邸 。富山売薬業の史料や薬の製造に使われた道具や170種類の原料などが展示されている。開館時間:9:00~16:00 休:火曜、年末年始 入場料:大人200円 TEL.076-433-1684
神通峡
ブリが運ばれた越中飛騨街道に沿って流れる、神通川の翡翠色をした水と両岸の岩壁が織りなす美しい峡谷。特に寺津橋から吉野橋の間は「片路峡(かたじきょう)」と呼ばれ、春の新緑や秋の紅葉がみごと。
籠の渡し
「籠の渡し」に使われた道具(猪谷関所館所蔵)。曲芸のような籠渡しは見物人も多く、東海道五十三次で知られた歌川広重も、『六十余州名所図会』で越中西街道蟹寺村の籠の渡しの様子を描いた。
高山の古い町並み
今村峠を下ると越中東街道は西街道と合流して高山城下に入る。高山市内にはいまも、江戸時代に商人町として栄えた出格子の連なる上町などの古い町並みが残されている。
猪谷関所館
越中飛騨街道の猪谷の関所。当時は神通峡の東岸と西岸にふたつの関所があり、現在では西猪谷関所跡に資料館が建つ。代々関所番を務めた橋本家の史料や古文書などを展示。開館時間:9:00~17:00 休:月曜、年末年始 入場料:一般150円 TEL.076-484-1007
神岡風景
レトロタウン神岡の探訪には「神岡街歩きガイド」がお勧め。地元の暮らしに根付いた共同水屋で休憩しながら市街地や郊外の自然を散策するコースのほか、酒造や和菓子屋に立ち寄る「神岡うまいもん 味めぐりツアー」もある。
富山の薬売りも通った道
 越中飛騨街道はまた「富山の薬売り」が通った道でもあった。富山の売薬の始まりは元禄3年(1690)に江戸城で起きた事件がきっかけだった。出府していたある大名が腹痛を起こし、居合わせた越中富山藩第2代藩主・前田正甫(まさとし)が、懐に持っていた丸薬の一種「反魂丹(はんごんたん)」を与えたところ、みるみるうちに回復したのである。これを目撃した諸藩の大名たちが「売って欲しい」と願ったことが発端だと伝えられている。薬種商の館の金岡邸では、300年に渡って富山で製造されてきた薬の様々な原料を見ることができる。中国やチベットに生息するジャコウジカから採った最高級の生薬である麝香(じゃこう)をはじめ、原料のほとんどは中国や東南アジアからの輸入品であった。薬商はこれらを仕入れて「売薬さん」に売り、彼らが技術と勘を駆使して薬の製造から販売までを行なったという。
 富山の売薬の特長的な商法は「先用後利」といって、得意先に先に薬を預け、使った分の代金を後から回収するというものだった。お客にとって便利でありがたいこの方法によって富山の売薬は全国に知れ渡り、行商人たちは重さ20キロもある柳行李を背負って、越中のみならず、諸国の街道を歩き巡ったのである。  
川を渡り雪の峠道を越えてブリは往く
 富山城下を離れた越中飛騨街道は、笹津から猪谷関までは神通川の両岸を通る道があったが、西岸は加賀藩領で関所の検閲が厳しく、行商人たちは富山藩領の東岸ルートを好んで通っていたという。こうした川沿いの街道では、橋がないところでは狭い谷を選んでロープを渡し、人や荷物を籠にぶら下げて運ぶ「籠の渡し」の方法が取られた。その先、猪谷から高山までは、雪崩の心配が少ない越中西街道の方がよく使われたというが、越中東街道の途中にある船津(現在の神岡町)に寄り道してみたい。
 神岡は昭和30年代に鉱山で栄えた歴史があり、そこかしこに昭和の香りが漂う懐かしい町だ。高原川に沿う新緑の気持ちの良い小道を歩きながら、300年以上前、重い塩ブリを担ぎここを行き来したであろう歩荷たちの苦労を思う。
 神岡からはさらに2つの峠を越えて高山に至るが、最後の今村峠を下ったあたり(現在の高山市国府町上広瀬)が、飛騨古川方面から来る西街道との追分であった。
 こうして富山を出発した塩ブリは、道中で2泊し、3日の早朝、高山に到着した。だが、ブリ街道はここで終わらない。高山からは「飛騨ブリ」と名前を変え、野麦峠を越えてさらに松本まで運ばれて行ったのである。高山線が全線開通する昭和初期までの話である。
●旅のスケジュール
★1日目
JR富山駅→(富山ライトレール24分)→岩瀬浜→(徒歩10分)→廻船問屋 森家→(徒歩5分)→磯料理 松月または食堂 天保→(徒歩10分)→岩瀬諏訪神社→(徒歩2分の競輪場前駅から富山ライトレール乗車23分)→JR富山駅→(富山地方鉄道バス約20分の呉羽山公園下車、徒歩20分)→呉羽山公園
★2日目
金岡邸→(徒歩15分の富山地方鉄道本線東新庄駅から乗車10分)→JR富山駅→(JR高山本線33分の笹津駅下車、徒歩約30分)→神通峡→(徒歩約40分の笹津駅からJR高山本線14分の猪谷駅下車、徒歩1分)→猪谷関所館→(バス約60分)→神岡→(バス約70分)→JR高山駅
※所要時間は目安です。休憩しながら無理のない古道歩きをオススメします。
※掲載されているデータは2015年5月現在のものです。
てくてく歩いて見つけた、ニッポンいいもの。第4回 越中飛騨街道 ブリを運ぶ道を往く
 富山の豊かな大地で育った白い米と、淡い紅色した鱒の切り身のコントラストがきれいな「ますの寿し」は、富山の伝統的な押し寿司。市内には提供店が30店舗以上あり、店ごとに独自の秘伝の味や製法スタイルを守り続けている。自分好みの味を見つけて旅のお伴にしてはいかがだろう。
 路面電車1日フリーきっぷと飲食店チケットがセットになった「ぐるっとグルメぐりクーポン 」もおすすめ。フリーエリア区間内の路面電車を1日乗り降りしながら、厳選されたます寿し店と富山名物の甘味店の中から好きな3店舗を選び、食べ歩いてみよう。  
アクセス&インフォメーション
●アクセス
JR東京駅から北陸新幹線で最速2時間8分のJR富山駅下車
おすすめ観光サイト
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文:風美紫紺(かざみしこん)
PROFILE
ライター。映像制作会社スタッフ。
風土と歴史や文化があいまって作りだす「風のいろ」と出合いに、自転車を抱えて電車に乗り、日本各地を旅する。五感で風を感じながら自分の足で「道」を往き、時空を超える旅の楽しさを伝えたい。
子育てとツーリングライフを描いた著書『ママはバイクを降りない』(潮出版)など。

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