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『鉄道写真家・南正時が案内する ローカル線de昭和レトロ旅』平成の世になり早21年。「昭和」という言葉が郷愁を帯びた響きになってきました。激動の時代ではありましたが、一方で熱きパワーみなぎるよき時代でもありました。鉄道写真家・南正時さんが、そんな昭和の面影を探して今日も旅に出かけます。(写真・文=南 正時)

第五回 国鉄時代の気動車走る「よしの川ブルーラインの旅」(徳島線 貞光駅・穴吹駅◆徳島県美馬市・つるぎ町)

途中下車して、ふと立ち寄った吉野川沿いの町。時代に取り残されたような懐かしい昭和の町並みがまるでタイムスリップしたかのように現存していた。何よりもうれしかったのは、昔ながらの芝居小屋兼映画館が現役で活躍していて、そこかしこに、地元の暮らしが息づいていたことだ。

昭和の旅人・南 正時

1946年福井県武生市生まれ。鉄道写真家、旅エッセイスト。
鉄道写真を撮り、旅を続けて40年以上。『JR全路線』『昭和の鉄道風景』『寅さんが愛した鉄道』など鉄道書のほかに、全国の名水を訪ねた『ご利益のある名水』など著書多数。ラジオ、テレビの旅番組、コメンテーターとして出演も多い。日本旅行記者クラブ会員。

【南正時のホームページ】
http://homepage2.nifty.com/masatoki/

南正時のショーワ!な1枚「貞光町の現役映画館。館内には懐かしい日活や東映時代劇のポスターが張られ、懐かしい昭和の雰囲気が漂う。」(「貞光劇場」にて)

縁起のいい駅、レトロ駅、話題の気動車。鉄道ファンにも人気のローカル線に乗って出発!

 徳島駅から乗った列車はJR四国ご自慢のエコ車両1500系気動車。佐古駅から高徳線と分岐して徳島線はほぼ「四国三郎」の異名を持つ吉野川に沿って走る。途中の蔵本駅前に鮎喰(あくい)川の伏流水が湧く「蔵清水」が、西麻植(にしおえ)駅の近くには名水百選「江川の湧水」があり、名水の旅を続ける私をはじめ、名水ファンには魅力ある途中下車の旅が楽しめる路線でもある。

 西麻植から2つ先の「学(がく)駅」は、その名前から受験生に縁起の良い駅として知られる。駅舎は古風な櫓が建つ「寺子屋」風で、こちらも受験生でなくとも途中下車の価値はある。

 吉野川のほとり、穴吹駅で下車してみる。改札口を出て振り返ると駅舎は和のたたずまいで、うだつの町並み「脇町」への期待が一気に高まる。

 町並みから少し歩き、大谷川沿いの柳並木あたりに、レトロな映画館「脇町劇場」が現存している。昭和9年に建てられた回り舞台付きの芝居小屋兼映画館で、戦後は歌謡ショーや大衆芝居が公演され、昭和30年代の映画全盛時には地域の娯楽の殿堂として賑わった。

 平成7年に閉館され、取り壊される運命にあったが、映画『虹をつかむ男』(平成8年、西田敏行主演、山田洋次監督)では「オデオン座」としてロケの舞台となり、一躍有名になって、現在は観光名所として公開されている。

 穴吹駅から再び徳島線に乗り、2つ目の貞光駅で途中下車する。ホームは、昭和の面影を残すレトロな雰囲気で懐かしい。貞光は一宇(いちう)街道と旧国道が交わる交通の要衝として栄え、街道に沿って今も二層うだつの古い建物が多く残り、そこには住民の生活ぶりが感じられる町並みがある。

 この町にもレトロ映画館がある。それも現役の映画館だ。「貞光劇場」は、昭和7年に開業以来、建物の外観も内装もほぼ当時のままで、今も上映を続けている全国屈指のレトロ映画館だ。映画館の玄関先には共同井戸の懐かしい手押しポンプがあり、今も打ち水などに使われている。

インフォメーション

マップ

アクセス
徳島線の起点・徳島駅へは、岡山駅から特急「うずしお」で約2時間10分。穴吹へは徳島駅から約1時間の穴吹駅下車、貞光へは徳島駅から約1時間15分の貞光駅下車
主な観光スポット
脇町劇場(オデオン座)⇒穴吹駅からバス10分
美馬市観光文化資料館⇒穴吹駅からバス10分
貞光劇場⇒貞光駅から徒歩5分
二層うだつの町並み⇒貞光駅から徒歩10分
旧長井家庄屋屋敷⇒貞光駅から徒歩10分
観光の問合せ
美馬市商工観光課 TEL.0883-52-2644
つるぎ町商工観光課 TEL.0883-62-3114
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四国の大河「四国三郎」こと吉野川を車窓に見て走る1500系エコ気動車 (徳島線阿波加茂~辻駅間)

貞光のうだつは、前面に寿福を祈念する絵模様が装飾されている二層式が特徴

穴吹駅は脇町への玄関口。和風駅舎には「うだつ」のイメージがシンボライズされ、旅情を感ずる駅だ

脇町劇場は内部も公開されている。回り舞台と芝居絵が華やかな時代を思わせる

受験生に人気のある「学駅」は櫓のある昔の校舎風の駅舎。縁起にあやかろうと駅名標との記念写真が人気

脇町の街道に沿った一角は伝統的建造物群保存地区として守られ、懐かしい町歩きが楽しめる

南正時の昭和☆みにこらむ

映画『虹をつかむ男』と脇町劇場

 『男はつらいよ』シリーズ第49作の「寅次郎花遍路(へんろ)」。主演の渥美清の死去で、幻の作品となったその代作が『虹をつかむ男』だった。キャストも西田敏行をはじめ『男はつらいよ』のメンバーが出演している。ラストシーンでは渥美清演じる寅さんが、CG合成でワンシーン登場する渥美清の追悼映画でもある。

 オデオン座の館主(西田敏行)が、映画の灯を守りながら、片想いの恋と映画館経営に翻ろうされる人情喜劇。ロケが行なわれた「オデオン座」の脇町劇場は平成7年閉鎖され、取り壊される予定だったが、山田洋次監督に見出されて一躍全国的に脚光を浴び、町指定文化財として昭和初期の創建時の姿に復元された。今では脇町の観光名所になっている。

柳並木の大谷川沿いにたたずむ脇町劇場。映画『虹をつかむ男』では「オデオン座」としてスクリーンに登場

イラスト:素材ダス

*掲載されているデータは平成21年9月現在のものです。

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