「西の京」とも呼ばれる山口は史跡が多く残るため、歴史散策にぴったりの町。JR山口駅を降り、まず向かいたいのが香山(こうざん)公園内に移築された「枕流(ちんりゅう)亭」だ。薩長同盟締結を目指し奔走した龍馬は、山口を訪れた時、当時の坂川河畔にあった枕流亭に立ち寄ったという。また、薩長同盟締結後、西郷隆盛や大久保利通、桂小五郎などが倒幕の密議をしており、錚々たる志士が足を運んだ建物なのである。
山口駅近辺でもうひとつ見ておきたいのが、現在も山口県庁表門として使われる「藩庁門」。元治元年(1864)に政事堂の表門として建てられたため、慶応2年(1866)に長州藩・毛利敬親(たかちか)に謁見した龍馬はこの門をくぐったと思われる。そう思うと、切妻造り、本瓦葺きのこの門が、とても荘厳に感じられた。
時間に余裕があればJRの「中国5県乗り放題きっぷ」を駆使し、龍馬愛用の湯呑みなどが観賞可能な下関市立長府博物館のある下関や、龍馬や高杉晋作が密談した暁天婁(ぎょうてんろう)のある防府(ほうふ)まで足を延ばすのも一興だ。
1日目の旅を終えたら、初日の宿は、温泉が再湧出してからちょうど300年を迎える湯田温泉がおすすめ。バラの足湯や、一の坂川での「ほたる観賞Week!」(平成22年5月29日~6月6日)など、雅なイベントが満載なのだ。
2日目の目的地、萩へ向かう際、土・日曜・祝日であれば乗ってみたいのがJR山口線を行く「SLやまぐち号」。モクモクと煙を吐き、山を越え、鉄橋を抜け、山里を走るSLに揺られていると、まるで昭和初期に舞い戻ったかのよう。東萩駅で下車したら、多くの長州藩士を育てた吉田松陰の資料を展示する「松陰神社宝物殿 至誠館」へ。松陰が刑死する前日に門下生へ書き遺した遺書「留魂録」、松下村塾を館内から見られる「村塾の観席」など、幕末ファン大満足の展示内容なのだ。7月17日からは松陰の生誕180周年企画展示もはじまるので、こちらも観賞しておきたい。
お次は、龍馬も手紙で「長州の政治を預かり候第一の人物」と一目置いていた木戸孝允(桂小五郎)旧宅へ移動。小五郎が生まれた時のまま残る庭園や部屋などは、派手さはないもののどことなく格式が高く感じられ、自然と小五郎への畏敬の念が生まれる。
龍馬が、萩滞在中に剣を振るったといわれる「有備館」も見逃せない史跡。小学校の敷地内にあるため普段は外からしか見られないが、平成22年は数日間に限り内部を公開予定だ。
最後は、「萩ガラス工房」で約140年ぶりに復刻された萩切り子の観賞を。龍馬が手紙で「天下の人物」と賞した高杉晋作の書の中にも、この萩切り子は描かれている。復刻された大村益次郎愛用盃の美しい切り子模様を透かしみれば、その向こうに龍馬や長州藩士たちの酒宴の風景が浮かんでくるような気がした。