『トレたび』は、交通新聞社が企画・制作・運営する鉄道・旅行情報満載のウェブマガジンです。
東京駅から新幹線で約3時間、山形県の東部の温泉とフルーツの町として知られる天童駅に降りたてば、なんの前情報がなくてもここが将棋駒の生産で有名な土地だと察せられるだろう。改札付近では、高さ1mほどの堂々たる“王将”が旅人を出迎えるし、駅の食堂のメニュー表示も、駅内の時計も将棋駒をモチーフとした五角形。道路のタイル絵もポストの飾りやタクシーの屋上表示灯も見慣れたあの形なのだ。
「天童ワイン」へと向かうタクシーの車中、運転手さんの話によると、毎年春には武者や腰元に扮した人々が将棋の駒に扮して、プロ棋士が対局する“人間将棋”が50年以上も前から続いているのだという。
金色の稲穂が輝く広い広い水田を抜けて、ワイナリーへ10分ほどで到着。帰り道の足を案じると、「30分くらいなら待ってるから~」と運転手さん。このあたりでは日常的なことのようで、エンジンとメーターを止め、にこにこと待ちの姿勢に入った。う~ん、ありがたい!
天童ワインでは「ワインは風土の個性よく表われるもの」と考え、天童産のブドウならではの個性を引き出した造り方を心がけている。ワイン用のブドウ生産者の確保に尽力し、現在では、契約栽培を中心に県内産のブドウのみでワインを製造。山形県産のブドウは、山梨県と比較すると積算温度(生育期間中の10℃を越す温度を足し合わせること)がやや低い。そのため、同じ品種でも、ワインの骨格となるしっかりした酸味のあるワインになるという。
つづいて奥羽本線で南下すること9駅目の、かみのやま温泉駅へと移動しよう。こちらは、足湯が5つ、共同浴場は7つもある“立ち寄り湯の天国”みたいな町だ。共同浴場は、カランの数が少なく、洗い場のスペースも限られたごくごく素朴な湯処。「しんばらくぶりね~。おばあちゃん元気ィ?」なんて会話が聞こえてきて、地元民が日常的に利用しているのがいい。湯はかなり熱めだが、かけ湯で十分体を温めてから「えいや」と浸かれば、やっぱり極楽なのである。
湯けむり上るのどかなこの町にあるのが、山形のワイン産業をけん引してきた「タケダワイナリー」だ。社長として会社を切り盛りする五代目・岸平典子さんは、フランスはブルゴーニュの醸造学校で実践的な醸造学を学んだ人物。有機的な農法でブドウを育て、世界に通用するワインを手がけている。畑を目にしてその味を確かめれば、感動もひとしお! たくさんの手と愛情をかける造り手の熱意にふれられるのが、山形のワイナリー訪問の醍醐味でもある。
明日は赤湯をめぐり、高畠にも赴きたい(というあなたは1ページ「赤湯・高畠」をもう一度ごらんください!)。駅舎に温泉施設を併設した「高畠駅太陽館」なら、帰り際直前の泣きのひとっ風呂まで楽しめる。ウィークエンドパスを駆使しても、旅の欲望はあれもこれもと尽きることがない……これは来週末も来るしかない?!
1日目 | 発着駅 | 時間 | メモ |
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東京発 | 7:16 | 山形新幹線つばさ103号 | |
天童着 | 10:21 | 「天童ワイン」 | |
天童発 | 12:32 | 奥羽本線 | |
かみのやま温泉着 | 13:15 | 「タケダワイナリー」のあとは、足湯や上山城散策。 | |
かみのやま温泉発 | 16:45 | 奥羽本線 | |
赤湯着 | 17:03 | 宿泊 | |
2日目 | 午前中からワイナリー1~2ヵ所へ。「ゆーなびからころ館」で物産を買ったりしてひとやすみ。出前も取れるので、ランチもすませられる。隣の「元湯共同浴場」で2つの源泉を楽しむもよし。 | ||
赤湯発 | 13:29 | 山形新幹線つばさ116号 | |
高畠着 | 13:34 | 「高畠ワイナリー」 | |
高畠発 | 15:54 | 奥羽本線 | |
米沢着 | 16:03 | 新幹線の待ち時間を有効活用して、「米沢牛味噌粕漬」といった米沢牛みやげを調達したい。もちろん、帰りの駅弁も! | |
米沢発 | 17:41 | 山形新幹線つばさ126号 | |
上野着 | 19:50 | ||
東京着 | 19:56 |
取材・文・写真=沼 由美子
※掲載されているデータは平成22年10月現在のものです。