『トレたび』は、交通新聞社が企画・制作・運営する鉄道・旅行情報満載のウェブマガジンです。
運転日●ほぼ毎日。平日は各駅停車、土・日曜・祝日の1・2号は快速運転
運転区間(時刻は土・日曜・祝日の場合を紹介)●1号=新下関駅発9:59→仙崎駅着12:38、
2号=仙崎駅発12:45→下関駅着14:56、3号=下関駅発16:47→滝部駅着18:09、
4号=滝部駅発18:13→新下関駅着19:41の1日2往復
きっぷ●自由席と指定席があり、指定席は乗車券のほかに指定席券が必要
*運転日・運転区間・時刻および編成などは変更となる場合がありますので、
ご利用の際はあらかじめ
『JR時刻表』などでご確認ください。
新下関駅、専用のホームに「みすゞ潮彩」が入って来た。金子みすゞが生きた大正時代のアール・デコ調のデザイン。指定席はすべて山陰の海側を向き、車窓はなんと両手を広げた幅よりも広く、思い切り絶景を楽しめそうだ。期待を胸に、早々に売店で「みすゞ潮彩弁当」を買い求めて準備は万端。スタッフ(実は紙芝居の語り部)から沿線イラストマップをもらい、いざ出発だ。
列車はしばらく街中を走る。ちなみに沿線マップ「車窓から楽しむ風景の時刻表」が、あなどれない。「ずらっと並んだ緑のダルマ(植木だよ)」など、車窓から見える、気になるものが細かに書き込んであり、見つけると嬉しくなったりして……。普段着の風景こそ、普通列車の旅の醍醐味!?
そうしている間に列車は減速。みすゞ潮彩は、絶景ポイントで一時停車してくれるのだ。最初のポイントは小串駅と湯玉駅の間。海の碧が空の青と溶け合って群青の水平線を描き、左右いっぱいに海が広がる車窓はキャンバスのよう。車内アナウンスによると、海に浮かぶ小さな島は地元では「孤留島(こるとん)」と呼ぶ。ピアニストのA・コルトーが川棚温泉に投宿した際、島の風景に見ほれて「自分のものにしたい」と言ったことに由来するとか。今まさにコルトーの気分……
列車の旅は続く。目前の海に目を奪われがちだが、振り返ると、冬枯れた田畑や山景色が流れ、また情緒がある。 長門二見駅を過ぎた後は、しばらく海とお別れ。この間に紙芝居「童謡詩人・金子みすゞ」を楽しむ。その生涯の物語は、仙崎の予習に最適かも。
旅は続く。お隣では、栃木から来たという夫婦が文庫本をお供に列車旅を満喫中。こちらは車窓を満喫。湾に集落が寄り添った漁村、ペンキがはがれた駅舎、野花が咲く土手、並走する車で手を振る人……。連綿と続く列車のリズムに乗って、のどかな景色とすれ違うにつれ、山陰の美しさは海だけではないのだと思う。
そして、仙崎へ着いた。
仙崎、金子みすゞが育った町。西条八十(やそ)に才能を認められながら、不幸な結婚を経て昭和5年、26歳の若さで自ら命を絶った幻の詩人。町が大漁でわく一方で、海では魚の弔いがあることを歌った『大漁』など、すべての命に煌(きら)めきをみた詩は、今なお心を打つ。
仙崎の町はぜひゆるりと歩いてほしい。みすゞの歌の風景がそこかしこに蘇ってくるから。「馬つなぎ場」や「八百屋のお鳩」の碑、「みすゞ八景」のひとつ、極楽寺、弁天島……。掃き清められた道には軒の低い家々が並び、軒先にはお手製の詩碑。板にマジックで好きな詩を書いただけのものもあって、玄関先には、かわいらしいおばあちゃんがチョコン。書いた本人かな? 素朴で、なんだか愛おしい。
生家跡には「金子みすゞ記念館」があり、年間11万人もの人が訪れるという。根強い人気の理由を「彼女は見えないものを、心の目で見た人。心の目で見ると、喜びや悲しみも見えてくる。だから心に響くのでしょう」と語るのは、スタッフの草場睦弘さん。
草場さんに教わり、青海大橋を渡った高台の王子山公園に上ってみた。彼女はここからの景色をこう歌った。
「木の間に光る銀の海、わたしの町はそのなかに、竜宮みたいにうかんでる」
仙崎という小さな町で育った彼女だが、その詩の世界は豊かで大きい。その目線の先には、身近な自然や命の営み、そしてそれらを包み込む山陰の自然があったように思う。
帰りはちょうど夕刻だ。海に沈む夕日を見たいと思った。
大きな窓でパノラマビューを楽しんだり、展望ラウンジで駅弁をほおばったり。津軽三味線を聴いたり、紙芝居を見たり、薬膳料理を食べたり、じゃんけん大会で地元名産品をゲットしたり。車両やイベント、サービスなど、プラスαの楽しさがある列車が大集合!
第2特集●知ったら寄り道したくなる「実は面白いミュージアム」
特別企画●熊本ぶらり旅(熊本市内、植木町、天草、南阿蘇)
定価:580円(税込)