水戸で乗り継いだ常磐線の普通列車は大津港、勿来(なこそ)あたりでようやく太平洋と出合う。その先で下車した湯本は、駅名のとおり歴史を誇る湯の町。古くは湯治場や温泉宿場町として栄え、現在も20数軒の宿を数える沿線きっての温泉郷だ。炭鉱から温泉郷に大変身したスパリゾートハワイアンズの玄関口でもある。
次の列車までの時間、駅や駅前、街角の足湯に浸かり、腰痛や肩凝りにも効くという天然温泉100%の共同浴場「さはこの湯」でひと風呂浴びた。
いわき駅で郡山行きの磐越東線に乗り換える。太平洋側の“浜通り”と中央部の“中通り”を結ぶ、福島県民には重要な生活路線だ。
ボックスとロングシートの列車には、新緑の山や田植え間近の水田がひらけ、小川郷、江田から川前にかけて阿武隈山地を縫う短いトンネルが連続する。その合間、車窓の左右に何度も入れ替わる夏井川の渓谷美に、僕は何度も心を躍らせた。
神俣(かんまた)で途中下車して、タクシーであぶくま洞へ。削り採られた石灰岩の無残な山の下に全長600mの鍾乳洞が延びる。鍾乳石や石筍が織りなす空間は妖しくて幻想的で、通年14度という冷気も心地よかった。
泊まりの小町温泉は平安時代の絶世の美女・小野小町の故郷に1200年前に発見されたと伝わる古湯である。美肌づくりのアルカリ性単純泉が小町伝説と結びついたのだろう。
翌朝、郡山へは今様小町の女子高校生たちであふれる各駅停車。車窓には田畑や杉林、集落が流れ、滝桜で知られる旧城下町の三春(みはる)を過ぎて、やがて阿武隈川を越すと、ビルを交えた県南きっての都会、郡山の街が現れた。