『トレたび』は、交通新聞社が企画・制作・運営する鉄道・旅行情報満載のウェブマガジンです。
東京都出身。ドラマ化された『孤独のグルメ』(谷口ジローとの共著・扶桑社)、『花のズボラ飯』(水沢悦子との共著・秋田書店)ほか、漫画、エッセイ、音楽など多方面で創作活動を展開中。旅先ならずともちょっと出かけて朝風呂に入り、ついでに一杯飲んで帰るという新刊、『ふらっと朝湯酒』(カンゼン)発売中。
三原(三原市)から海田市(海田町)まで28駅。87㎞。ほぼ瀬戸内海に沿って広島県内を横断する路線。
時期により、クルーズ船のような車内と眺望が人気の観光列車「瀬戸内マリンビュー」も走る。
道の両側が低い山になっているところに「農家レストラン西野」というのがポツンとあった。時間を見ると11時50分。よし、ここで昼だ。短い坂を上ったところに前庭があり、その向こうにいかにも農家という瓦屋根の母屋がある。これはいいかも。引き戸をガラガラと開けると、土間になっていて、おばちゃんが、「よう来らっせ」と言った。そのまま靴を脱いで上がると、広い畳敷きの部屋に、4組ぐらいの客が昼を食べていた。
おばちゃんの感じもすっごくよくて一気に和む。「おいでなさい、どちらから来らすった?」。お茶と「はったい粉」を砂糖とお湯で練ったものが出た。大麦を炒って粉にしたものだそうだ。素朴な昔味。初めて食べたが、近いものを小さな頃食べたような気がする。「おまかせ御膳」1000円を注文。「はい。これ、お接待。気持ち。今、用意するきに」と言ってくれた、カンロ飴1粒にも感激してしまった。コートのポケットにしまう(あとで歩きながら舐めた)。
出てきたのはこのあたり名産のジャガイモを使ったコロッケを中心にした定食。みじん切りにしたニンジンなどの野菜を混ぜ込んだ小振りなコロッケは味が濃くておいしく、ソースなどかけないで食べる。野菜の小鉢が全部おいしく、お米の炊かれ具合が素晴らしく、めちゃくちゃウマイ! 最近食べた白いごはんの中でも、ずば抜けておいしかった。具沢山の味噌汁の味も最高。障子越しの昼の日差しが美しい。
ああ、懐かしいニッポンのワタシ。こんな店に出合えたなんて感激だ。食べ終わって、店を出て歩き出したときの気持ちは、大漁船。あるいは大物を釣り上げた帰り道。釣り、しないけど。