『トレたび』は、交通新聞社が企画・制作・運営する鉄道・旅行情報満載のウェブマガジンです。
東京都出身。ドラマ化された『孤独のグルメ』(谷口ジローとの共著・扶桑社)、『花のズボラ飯』(水沢悦子との共著・秋田書店)ほか、漫画、エッセイ、音楽など多方面で創作活動を展開中。旅先ならずともちょっと出かけて朝風呂に入り、ついでに一杯飲んで帰るという新刊、『ふらっと朝湯酒』(カンゼン)発売中。
三原(三原市)から海田市(海田町)まで28駅。87㎞。ほぼ瀬戸内海に沿って広島県内を横断する路線。
時期により、クルーズ船のような車内と眺望が人気の観光列車「瀬戸内マリンビュー」も走る。
そうして呉のひとつ前の安芸阿賀(あきあが)駅に到着。午後3時半。冬なので日差しが夕方だ。ホームには学校帰りの高校生がたくさんいた。広島弁でゲームのことなど話していた。反対側のホームは学生が少なく、ポツンと座った男子生徒がいて、光がよかったので、写真を撮った。昔の自分を見るようだ。
さて、ひと駅電車に乗り、トンネルを潜ると、すぐにゴールの呉に着いた。今日は予定より早かったので、遠回りしてももうひと駅歩けばよかった、と思った。まだまだ余力がある。それで駅から近い大和ミュージアムに行ってみた。そこで見た10分の1大和の模型より、そこに向かう途中で見た巨大な潜水艦のほうが唐突でインパクトあった。
呉港にしばらくいた。さすが造船の街、船やクレーンがたくさん見える。落ちて行く太陽が眩しいけど、刺すような郷愁感があり、立ち去りがたかった。
ホテルのユニットバスで汗を流し、着替えて仕事をしてから、夜の街に出た。ホテルの人に聞いた飲食街のそばに「赤ビル温泉」というものを発見。古いビルの3階にあり「銭湯」と書いてある。これは入らずにはいられない。温泉は蓋がしてあったけど(やめたらしい)、大きな風呂(小さかったけど)は、ユニットバスとは比べ物にならないほど体があったまる。疲れが解けていくようだ。
すっかりあったまり、屋台で呉名物というガンス(すり身の揚げ物)や鶏皮の味噌煮で酒を飲み、今日の散歩を今一度噛み締めた。
※「旅の手帖」2014年3月号より掲載しました。