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久住 昌之 Kusumi Masayuki (文・写真・画)

東京都出身。ドラマ化された『孤独のグルメ』(谷口ジローとの共著・扶桑社)、『花のズボラ飯』(水沢悦子との共著・秋田書店)ほか、漫画、エッセイ、音楽など多方面で創作活動を展開中。テレビ東京系でドラマ『孤独のグルメ』の第4シーズンが絶賛放映中。

南武線 なんぶせん

川崎から立川までに、浜川崎支線と呼ばれる浜川崎から尻手(しって)を加えた39.6km30駅。京王、小田急、東急と、多くの線と交差する路線。今回は川崎市の登戸から平間までを歩いた。

 

 今月はテレビの深夜ドラマ『孤独のグルメ』の音楽を毎週作っていて、脚本にも参加、さらにちょっと出演までしているので、忙しくて遠出ができない。そこでたまには近場を歩こうということで、南武線を登戸から南につたい歩き、武蔵溝ノ口あたりまで行ってみようかということにした。

 登戸に着いたのは昼過ぎ。何か食べてから歩き始めようと思ったが、なんだかそれもツマラナイ。おいしそうな店に「途中で出会う」ところに、事前に調べないで歩くボクの散歩の醍醐味がある。せめてひと駅先の「宿河原(しゅくがわら)」というちょいと魅力的な名前の駅まで歩き、そこで食べることにした。もちろん行ったことない場所。

 列車はシルバーの車両に黄色とオレンジのラインが入った平凡なタイプ。ボクが高校の頃は、南武線は山手線や総武線のお古がちぐはぐに繋がっていて「南武線の駄菓子電車」とからかわれていたのを思い出す。ボクの高校は京王線沿いだったので、南武線を利用してる友だちも多かった。

 しかし暑い。ドピーカンの青空。登戸で顔首腕に日焼け止めを塗った。ペットボトルの水も買った。15分も歩くと汗が噴き出した。今日はリュックにちゃんと着替えも入れてきた。まずは広いバス通りを線路と並行して歩くしかない。

 やはり東京と違う。何が違うんだろう。マンションの間に小さな畑が残っていて野菜の販売所がある。波板トタンの屋根に、安そうな古い布のカーテンが下がったインドの路上の小屋のようだが、中には穫れたてに見える野菜が並んでいる。病院や小学校があるが古い住宅地。道が少し細くなったら、なんと道脇に20m四方の釣り堀が現れる。こんなところに。この炎天下で釣りをしている人がひとり。日傘をガッチリ固定しているが、いくら水辺とはいえ今日は釣りには暑すぎる。券売所のようなものは見当たらないが、麦わら帽をかぶったおじいさんがあたりを片付けている。あの人がやっているのか。しかし動力小屋みたいなのはあるけど日陰はない。2人とも大丈夫だろうか?

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