『トレたび』は、交通新聞社が企画・制作・運営する鉄道・旅行情報満載のウェブマガジンです。
東京都出身。ドラマ化された『孤独のグルメ』(谷口ジローとの共著・扶桑社)、『花のズボラ飯』(水沢悦子との共著・秋田書店)ほか、漫画、エッセイ、音楽など多方面で創作活動を展開中。
東三条(三条市)から弥彦(弥彦村)までの17.4km、8駅。
今回は上越新幹線が停車する燕三条から新潟平野の水田地帯を抜け、越後一ノ宮・彌彦神社の境内にある弥彦までを歩いた。
今回は、新潟の弥彦線につたい歩く。新潟は父の郷里だ。新潟人の血が入っているせいか、少し嬉しい。終点にある弥彦山には、小学生の時一度だけ行ったことがある。坂道に「マムシに注意」という張り紙があったこと以外なんにも覚えていない。それほどその張り紙は恐怖だった。
朝9時30分。燕三条駅前から、歩き出す。燕三条は新幹線の駅のせいか、駅近くは新興住宅地っぽい。例によって大規模量販店がドーンとある。その中で弥彦線だけ単線で古ぼけて見える。家々のガレージの屋根がどこもしっかりしているのが雪国だ。
秋晴れで気持ちいい。30分ぐらい歩いたら、やっと古い酒屋があって、畑が現れた。大根、サトイモ、すごく太い青ネギ。それから小さな古そうな金属工場が並んでいて、そこを越したら急に家が皆古くなってきた。そういえば、燕市は金属加工業も有名だ。弥彦線と少し離れて中ノ口川というわりと大きな川を渡って、少し行くと「無形文化財 玉川堂(ぎょくせんどう)」という古い木造の大きな建家がある。なんだかわからない。調べたら創業文化13年(1816)の現役鎚起(ついき)銅器製造所だった。銅を叩いて作る器だ。へー。こんな所に。質素で風格がある。
10時20分、燕駅前通過。古い牛乳店。「美術喫茶 六朝館」。シブい美容室。さらにシブい「おおもり食堂」。店の中から犬が出てきた。小さな踏切。個人宅にしか見えない「鈴木洋服店」。こういうなんでもない古い町の中を歩くのがたまらなく楽しい。名所旧跡やごちそうだけが旅ではない。
と、思っていたら、突然目の前が開けた。刈り取られた田んぼだ。広い。いきなり米どころ。その中に大きなJAの建物。「ライスピアつばめ」と書いてある。秋空が広い。空気がうまい。気分がいい。すぐそこに丸裸の弥彦線の鉄路が横たわっている。
道の正面遠くに、山が連なっている。まわりは平野なのに、そこだけ低い屏風状に山が立ちはだかっている。弥彦山ではないか。頂上にアンテナのようなものがたくさん立っている。まわりで一番高いからだろう。道路も鉄路もそこに向かっている。間違いない。なんだ、歩き始めて1時間半で、ゴールが見えてしまった。あそこまで歩くのか。そう思うと遠い。距離相当あるぞ。