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根室本線の釧路〜根室駅間は「花咲線」の愛称を持つ自然豊かな路線です。カキで有名な厚岸(あっけし)にも近い糸魚沢駅は、昔ながらの木造駅舎。改築により昭和22年(1947)に誕生した駅舎は、ほぼ当時の姿のままです。素朴な板張りの外観が懐かしさを誘います。
特徴的なのは、この駅舎の屋根構造にあります。正面側の屋根に比べ、ホーム側の屋根が高く設計された「段違い屋根」の構造で、軒下はモルタルで塗られ、段差部分に設けられた2ヵ所の採光窓が良いアクセントになっています。
高く取られたホーム側の屋根は、そのままホーム上にまで達しています。一般的には駅舎本体とは別にホーム屋根を造るケースが多い中で、一体化した設計に機能的な要素もうかがえます。
沿線では瓜二つだった門静(もんしず)駅舎が建て替えられた現在では、大切にしたい、貴重な存在の駅舎といえるでしょう。
駅舎正面の軒下に取られた採光窓は、室内に光を取り込むとともに外観上の良いアクセントになっている
屋根が段違いになっている個性的な木造駅舎。妻側からその特徴がよく見て取れる
上野駅のスタートは民営の「日本鉄道」が上野〜熊谷駅間を開業させた明治16年(1883)で、初代上野駅舎は開業から2年後の明治18年に竣工しました。それまでは仮設の駅舎だったといいます。初代駅舎はレンガ造り2階建てでしたが、大正12年(1923)9月1日に発生した関東大震災による大火で焼失。その後建設されたのが、現在も使用される2代目駅舎です。
東京の北の玄関口に建つ2代目駅舎は昭和7年(1932)3月末日に竣工。地震の教訓を生かし、鉄筋・鉄骨コンクリートによる地上3階・地下2階の強固な造りとなっています。
正面玄関口の車寄せは、当初は1階が乗車客用、地下1階が降車客用と分離されていました。円滑な動線も考慮するなど、機能的な設計を取り入れる一方で、コンコースのアーチや上階部分の天井・壁の装飾など、内部には優雅な意匠も見られます。
平成15年には大規模なリニューアルが実施され、駅舎を活用した飲食店などがオープン。その素晴らしい意匠を間近で見ることができるようになりました。
関東大震災の教訓から鉄筋・鉄骨コンクリート造りが採用された上野駅2代目駅舎
中央改札前のコンコース。竣工当時は「待合広間」と呼ばれ、中央には円形の案内台があった
東西の都を結ぶ「中山道幹線」建設の資材運搬用に敷かれた武豊(たけとよ)線(当初は半田線)。亀崎駅はその中間駅のひとつとして明治19年(1886)3月に開業しました。
亀崎駅舎は、外板や屋根などは補修が加えられていますが、駅舎自体は開業当時のものを現在も大切に使用しており、日本の「現役駅舎」では最古のものとして知られています(現存する日本最古の駅舎は、滋賀県長浜市の「旧長浜駅舎(長浜鉄道スクエア)」)。
補修は木材の質感が活かされたものに仕上げられていて、茶色のペイントと相まって当時の小駅の様子を今に伝えています。
建築から123年という長寿駅舎。いつまでも残したい駅舎のひとつです。
明治19年の建築から123年の亀崎駅舎。竣工当時の雰囲気を損なわないような補修がなされている
亀崎駅の改札口付近。駅舎は現役最古ながら、改札は最新のタッチパネル式を設置