門司港は九州の鉄道の発祥地。国指定重要文化財のレトロな門司港駅舎に隣接して建つ元九州鉄道本社社屋の赤レンガ建築が「九州鉄道記念館」だ。ドイツ風建築を思わせる館内には九州の鉄道創世記の貴重な資料、九州を走ったゆかりの車両、ブルートレインなどのヘッドマークのほか、家族連れでも楽しめる鉄道アトラクション、季節展示が充実している。
住所●福岡県北九州市門司区清滝2-3-29 TEL●093-322-1006 開館時間●9:00〜17:00(入館は〜16:30) 開館日●第2水曜(祝日の場合は翌日休。8月除く。7月は第2木曜も休み) 入館料●大人300円、中学生以下150円 アクセス●JR鹿児島本線門司港駅から徒歩3分
門司駅を発車したローカル電車は、関門海峡に沿って門司港駅に到着する……。
門司港駅は大正3年(1914)に「門司駅」の駅舎としてオープン。ドイツ風建築を模したネオ・ルネサンス様式で、威風堂々とした九州最古の木造駅舎だ。昭和17年の関門トンネル開通までは、海峡を隔てた下関駅を結ぶ関門連絡船の駅として、また、九州の鉄道の玄関口として賑わった。駅舎だけでなく駅構内もほぼ当時のままの姿で残っており、鉄道創世記の文化を色濃く漂わせ、昭和63年には駅舎として初の国の重要文化財に指定された。
九州の鉄道は明治21年に「九州鉄道本社」が設立され、明治24年に門司駅(現在の門司港駅)に本社を移転した。そのときに建てられた赤レンガ造りの本社社屋が、現在「九州鉄道記念館」として活用されている。
メインエントランスを入った1階吹き抜け部には、明治42年(1909)に九州で製造された木造客車が保存されている。館内展示には、811系電車の運転体験や「九州の鉄道大パノラマ」のHOゲージの鉄道模型があり、2階のガラス窓からこの鉄道模型を見下ろすと、さながら飛行機や鳥の目線で見たような鉄道パノラマが楽しめる。また、九州を走った歴代ブルートレインのヘッドマークの展示も見逃せない。
赤レンガの建物に並行して全長180mのホームが設けられ、ここには九州で活躍した歴代の車両8両が保存展示されている。車両には旧型ディーゼルカーから、L特急の創生期に走ったボンネット型特急電車、寝台電車581系、九州独自のED72形交流電気機関車など、かつて鉄道少年たちが胸躍らせた車両や、九州ゆかりの蒸気機関車などが、今にも走らんばかりにピカピカに磨かれ展示されている。
展示車両のひとつ「キューロク」として親しまれていた9600形59634号機は、昭和50年まで北九州の筑豊地区で使用された最後の蒸気機関車で、番号から「ごくろうさんよ」とファンの間では呼ばれていた。かつて石炭産業が盛んだった頃、筑豊炭田で石炭輸送に活躍した機関車だ。私は昭和40年代にキューロクを追って筑豊炭田を何度も訪れたことがある。当時、九州地区を走っていた蒸気機関車は終焉を迎えつつあったが、ボタ山をバックに力走していた姿が懐かしい。
充実しているコレクションを誇る九州鉄道記念館を見学した後、再び門司港駅を訪れ、構内を見学すると、改めて九州の鉄道文化の奥深さが見えてくる。九州鉄道記念館と、門司港駅との同時見学をぜひおすすめしたい。
- 九州初の交流電気機関車として昭和36年にデビューした。この機関車はロングボディと、前後が突き出したようなスタイルが特徴。ブルートレイン「さくら」「はやぶさ」などを引いて活躍した。写真は佐世保線で「さくら」を引くED72(昭和53年撮影)
- 昭和50年頃まで北九州の筑豊地区などで使用された大正生まれの蒸気機関車。石炭産業華やかな頃の筑豊のスター的存在だった。写真はボタ山をバックに走る9600形(昭和48年後藤寺線船尾〜田川後藤寺間で撮影)
- 昭和42年に世界初の寝台電車「月光」でデビュー。夜は寝台特急、日中は昼行座席特急として使われ、九州では「有明」「なは」「明星」などに使用された。写真は有明海沿岸を走る「有明」(鹿児島本線で昭和52年撮影。現・肥薩おれんじ鉄道肥後二見駅付近)
門司港駅は大正3年2月建築のネオ・ルネサンス風建築の駅舎で国の重要文化財
鉄道記念館のエントランスでは九州ゆかりの車両が入館者を出迎えてくれる
九州を走ったブルートレイン&ジョイフルトレインのヘッドマークも鉄道ファンには見逃せない
エントランスには明治時代の実物客車が展示されている。客席は畳敷きで、明治の九州の鉄道を再現
国鉄キハ07 41号。昭和32年に豊後森機関区に配置され、国鉄宮原線で使用された戦前の代表的な気動車。流線型の前面が特徴だ
国鉄EF10 35号。昭和17年の関門トンネル開通時にトンネル専用の直流電気機関車として配置された。デッキ付きで古典的スタイルの電気機関車
国鉄クハ481系603号。「こだま形」といわれるボンネットスタイルの特急電車。九州ではL特急「にちりん」「有明」「かもめ」「みどり」などに使用されていた
副館長の宇都宮照信さんは熱心な鉄道ファン。毎日の日課は展示車両を磨くこと。いつもピカピカだ