昨年から徐々に注目を集め始めた岡山の蒜山(ひるぜん)地域の焼きそば。全国に数ある焼きそばのうち、蒜山焼きそばにしかない特徴がある。まずは親のニワトリの肉を使用することでかみごたえと味わい深さを演出。もうひとつは味噌ベースのフルーティな甘辛いタレ。その食欲をそそる香りはもはや反則に近い。メジャーになる前に現地へ急げ!
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わんこそば、盛岡冷麺と並んで盛岡三大麺として今やすっかり有名になった盛岡じゃじゃ麺。元祖のお店「白龍(ぱいろん)」で初めて出されたのは昭和28年頃なのだとか。初代のご主人が満州時代に味わった「炸醤麺(ジャージアンミエン)」を参考に盛岡の人の舌に合うように工夫し、現在に至っているそうだ。一般的にジャージャー麺は中華麺を用いるが、じゃじゃ麺は平たいうどん麺。じゃじゃ麺のモデルになった本場の炸醤麺はうどん麺のようだ。
私が初めて食べたのは今から20年以上前。学生時代に試合の遠征で盛岡に行った際に、地元の方に連れて行ってもらった。久しぶりにじゃじゃ麺を食べたのだが、どうも食べ方の記憶が定かでない。もしかすると当時、そのまま食べただけではなかったかという気がしてきた。「そのまま食べただけ」ではいけないような書き方をしたのは、じゃじゃ麺には独特の食べ方があるからだ。
麺の量を決めて注文すると、やわらかめに茹でた平たいうどん麺に肉味噌、キュウリ、ネギ等がのった状態で出てくる。まずはその具材と麺とよく混ぜ合わせる。初めての人ならまず初めに一口。そしてできるだけ早く、生姜、ニンニク、ラー油、酢などと混ぜて自分で味を決めて食べたい。できるだけ早くというのは混ぜる量を考えているうちに麺が冷めてしまうから。そのためには、初めての人でもまず周りの人の食べ方を観察することをお勧めしたい。
最初から好みに調合するのは難しく、地元の人はそれぞれ入れるタイミングすら好みがあるそうだ。お店の人に聞くと酢やラー油、ニンニクの標準的な量を教えてくれるが、基本的には「好みです」という返事が返ってくる。そこで地元のお客さんを参考に、事前に混ぜ合わせる量の目安を決めておきたい。ちなみに私はたまたま隣に座った人が、多いほうがうまいというので多めにラー油や酢を使ったらちょっと味が濃くなりすぎてしまった。
食べ終わると、ほとんどのお客さんが食べ終わった皿で生卵を溶き、ゆで汁と肉味噌を加えて塩コショウで味を調え、スープを作る。これは「ちーたん」もしくは「鶏卵湯(ちーたんたん)」と呼ばれる仕上げのスープ。ちょっぴり別料金がかかる。
自分で味を仕上げるのであれば、出てきた時点では未完成ともいえる。考えてみると“食べる体験型テーマパーク”のよう。ぜひとも地元民のように、味だけでなく食べる行為も楽しむつもりで味わいたい。
盛岡じゃじゃ麺発祥の店。今でもここのじゃじゃ麺以外は認めないという頑固なお客さんも多いとか。昭和の風情が心地よい名店。
盛岡の旧称「不来方」を冠した店。地下にあり場所が分かりにくいが、メニュー豊富で、じゃじゃ麺初心者にもお勧め。
父の実家が長野だったこともあり、千葉出身ながら子供の頃、イナゴの佃煮を食べていた。ある日それが周りでは当たり前ではないことを知る。その後、父の転勤で地方の食文化の違いを知ることになるが、おそらく食べ物の奥深さを子供なりに感じた「事件」だったのだろうと思う。伊那近辺では、イナゴをはじめ蜂の子・ザザムシといった虫をタンパク源として食べる文化があるが、こうした昔ながらの食文化とは別に、ローメンという実に個性的な麺が存在する。
誕生したのは昭和30年ごろ。ローメンの正式な名前はチャーローメン(炒肉麺)。“ラーメンブームの時に音の感じが似ているから”、「チャー」を取って「ローメン」という名前にした、という冗談みたいな命名エピソードがあるが、どうも本当らしい。伊那の人はなかなか洒落が利いている。
さてそのローメンだが、蒸し麺と肉はスタンダードはマトン(羊肉)を使うが、匂いを嫌う人もいるため、最近では豚肉を使うところもある。キャベツなどの野菜と炒めたのち、お店ごとにスープ風ローメンと焼きそば風ローメンに分かれ完成形となる。同じ名前で完成形が違うというのはなかなか珍しい。
スープ風ローメンは文字通り肉や野菜などと炒めた後、醤油ベースのスープを入れる。元祖の「萬里」には食べ方が書いてあり、出てきたローメンに、最初にソース・酢をひとまわしかけ、後は好みでゴマ油、一味または七味唐辛子、おろしニンニクを入れて自分好みの味にしていただくとある。個人的には料理人が作った味に敬意を表し、まずはそのままで食べることを自分なりのマナーとしている。ラーメンにいきなりコショウをかけないとか、とんかつや餃子もまずはそのままで食べるとかいった程度のことなんだけど。
しかしこのローメン、盛岡じゃじゃ麺と同様、自分で複数の調味料を加えて完成させるという、いわば未完成の状態で出てくる。そのまま食べてもおいしかったけれど、色々入れると味が深くなる感じがする。いずれにしても、自分好みに味にバリエーションを加える作業は結構面白い。これもテーマパーク的である。
もうひとつ、焼きそば風ローメンはソース味。やはり好みで味を調整する。たまたま入った焼きそば風ローメンを出すお店で、かばんの中からおもむろにマイソースを出してかけるお客さんに遭遇した時はかなりびっくりしたが、お店の人に聞くと、「ああ、結構いるよ」。地方の食文化、恐るべし。
ローメンの元祖のお店。原型のスープ風(写真左)が食べられ、他にも地元ならではのメニューが豊富にある。旅情をそそる昔ながらの風情。
焼きそば風ローメンの発祥といわれるお店。やはり味は自分で決める。一味、酢、ゴマ油、ニンニクのほか、カレー粉、マヨネーズなどもあり。
昨年から徐々に注目を集め始めた岡山の蒜山(ひるぜん)地域の焼きそば。全国に数ある焼きそばのうち、蒜山焼きそばにしかない特徴がある。まずは親のニワトリの肉を使用することでかみごたえと味わい深さを演出。もうひとつは味噌ベースのフルーティな甘辛いタレ。その食欲をそそる香りはもはや反則に近い。メジャーになる前に現地へ急げ!