鶏の唐揚げは全国にあるが、北海道では「ザンギ」、今治では「センザンギ」と呼び名が変わる。実は下味の有無や衣など微妙に違いはあるようだが、それぞれ地域に根付いている。新潟では「唐揚げ」というメニューで、若鳥の半身揚げが供される。カレー粉を少しまぶし、さまざまな調味料で味を変えながらいただく。うーむ、奥が深い。
『トレたび』は、交通新聞社が企画・制作・運営する鉄道・旅行情報満載のウェブマガジンです。
今治に最初に興味を持ったのは、鉄板で焼くという「今治焼き鳥」。特に皮が特徴的で、せせりと呼ばれる首皮の部分を含め、串に刺さずにパリッとするまで鉄板で焼くのだが、その時、上から金属製の押し板のようなものでギュッと押し付けて作る。鉄板で作るやきとりは自分の知る限り全国でここだけだ。
地元の方からは、「今治は実は瀬戸内の海の幸が抜群にうまい!」と聞かされているのだが、なかなかそれを味わうに至っていない。また、やきとりに加え、カツライスというデミグラスソースのたっぷりかかった洋食や、食べるミルクセーキなど、魅力的なメニューも目白押しなのだ。工場が多く、工員さん向けの様々なB級ご当地グルメがある中、その存在を知ったのが「焼豚玉子飯」。これを食べ、一発でファンになってしまった。
今や伝道師的にご当地グルメを多くの知り合いに紹介している。「焼豚玉子飯ってどんなもの?」と聞かれ、「ご飯の上に焼豚と目玉焼きがのったもの」と答えると、「そのままじゃん!」と返される。しかし、それでわかった気になってもらっては困る。私のブログで以前焼豚玉子飯を紹介した時の男性諸氏からの反応の大きさは、いまだにそれを超える記事がないほどだ。それほど魅力的なビジュアルであり、想像しただけでもよだれが出そうな破壊力のあるB級ご当地グルメなのだ。
ビジュアルは見ての通りなのだが、2枚の半熟の目玉焼きの下には、ご飯を埋めつくさんばかりに焼豚が敷き詰められている。その上に、まずたっぷりの甘辛いしょう油ベースの焼豚のタレがかけられる。その上の目玉焼きにも焼豚のタレがかけられ、店によってはコショウを振りかけられて完成。たったこれだけなのだが、半熟の黄身を崩しつつ、焼豚と共にご飯をかき込むように食べると、とにかくものすごい勢いで食が進むのだ。
焼豚玉子飯は、現在は閉店した「五番閣」という中華料理の老舗の名店で、40年ほど前に賄いとして食べられていたとのこと。ここから独立した「白楽天」店主が昭和45年の開店の時にメニューに取り入れた。また「重松販店」も36~37年前に五番閣での修業経験があり、大阪での修業を経て今治で店を開店した時に、焼豚玉子飯をメニューに加えたとのこと。現在では市内約60店舗で提供されており、今治のソウルフードとして、市外からも多くの人たちが食べに来るようになってきた。全国区になるのもそう遠くはない。
発祥の店「五番閣」の味を受け継ぐ、昭和45年創業の老舗。現在はきれいな店舗になっているが、地元の根強いファンの多い人気店。
大衆食堂的な風情の店内で焼豚玉子飯をかき込む。旅人にもたまらない。甘めのタレと焼豚を、黄身を混ぜて食べるもよし、そのまま食べるもよし。
私が師匠と仰ぐ、日本の食文化に精通する日本経済新聞の特別編集委員・野瀬泰申(やすのぶ)氏から、3つの穴場的B級ご当地グルメを紹介された。青森県黒石市の「つゆ焼きそば」。今回紹介した愛媛県今治市の「焼豚玉子飯」。そして大分県大分市の「ニラ豚」である。つゆ焼きそばはすでに全国放送でも数多く取り上げられ、知名度はかなり高くなってきた。焼豚玉子飯も全国放送にちょくちょく取り上げられ、知る人ぞ知るグルメとして人気になっている。しかし、ニラ豚はネットで検索してもそれほど情報もなく、まだほとんど無名に近い。大分といえば、「とり天」が有名で、私も何度か食べに行った。ポン酢系のタレと洋がらしで食べ、おかずにもつまみにもなる一品だ。しかしこのニラ豚、もしかすると大ブレイクするかもしれない可能性を秘めている。
ニラ豚はそもそも地元の人気店「王府(わんふ)」の看板メニュー。ニラチャンというニラ入りちゃんぽんと共に多くの来店者が注文するようだ。当初、王府の個店メニューではないかと思っていたのだが、調べてみると、どうも複数の店で提供されているらしいということで、現地に調査(要するに食べ歩き)に向かった。車で移動するのであれば、大した距離ではないだろうが、公共交通機関では最寄り駅は高城(たかじょう)駅。王府だけでなく、そのほかの提供店もこの近辺に存在している。どうやら王府出身の方の店が多いようだが、あまりはっきりとは分かっていない。
ニラ豚は、ニラと豚肉と大量のキャベツをオイスターソース系の甘辛い味付けで仕上げた中華風スタミナメニューだ。唐辛子系の辛みもピリッと利いており、とにかくご飯に合う。味のイメージはレバニラに近いが、同じようなものではない。ニラ豚という名前ながら、キャベツの使用量が一番多いのはご愛嬌だが、これが全体の甘みを引き立てている。
ご当地中華というジャンル自体まだそれほど認知はされていないのだが、実はユニークなメニューがまだまだあるのではないかと思っている。個店の人気メニューだと思っていたら、実は地域の複数の店で提供されていた、なんていう話は少なくない。ニラ豚はこのうまさを考えると、今後メジャーになる可能性は相当高いのではないかと思う。ありそうで意外にないメニューなのだから。有名になる前に食べに行くべし。
地元の人なら誰でも知っているニラ豚の元祖。ニラチャンと共にお店の名物になっている。注文後の出てくるまで速度が驚異的に速い。
地元で人気の中華料理店。比較的やさしい味だが後からピリッと来る。裏メニューでどんぶりにする人や卵でとじる人もいるらしいが、まずはそのままで。
鶏の唐揚げは全国にあるが、北海道では「ザンギ」、今治では「センザンギ」と呼び名が変わる。実は下味の有無や衣など微妙に違いはあるようだが、それぞれ地域に根付いている。新潟では「唐揚げ」というメニューで、若鳥の半身揚げが供される。カレー粉を少しまぶし、さまざまな調味料で味を変えながらいただく。うーむ、奥が深い。