北海道は食材が豊かで、長い歴史がないため、あまり郷土料理がないと聞く。しかし、個人的には十分面白い料理があると思っている。訓子府(くんねっぷ)・置戸(おけと)に根付く“卵でとじないカツ丼”は、醤油ベースのたれカツ丼。ご飯に海苔が敷かれる、うな丼のタレに近い甘みのあるタレのカツ丼。なぜここにだけあるのかは定かではない。
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新潟といえば、うまい日本酒に豊かな海の幸。昔ながらの郷土料理もあれば、ラーメンもうまかったりする。出かけていったら食べたいものが盛りだくさんの新潟にあって、実はカツ丼が個性的でうまい。最近でこそ、新潟のカツ丼は知る人ぞ知るメニューになってきており、東京でも提供する店が進出している。
カツ丼といえば卵でとじるものが圧倒的に多いが、卵でとじるものでも、ダシ汁と一緒にカツを煮て卵を半熟にするものや、カツはご飯にのせておいて、ダシ汁を混ぜてネギ等と一緒に煮た半熟卵を後のせにするもの、中には別盛で出てくる一般的に「カツ皿」と呼ばれるものがカツ丼として提供されることもある。東日本では玉ネギを使うが、西日本では青ネギを使うなど、実は卵とじカツ丼にもかなり個性があることは意外に知られていない。
子供のころに住んでいた千葉県柏市の「美晴食堂」のカツ丼が大好物で、月に一度、家族で食べに行くのを楽しみにしていたが、それがカツ丼好きになった源流である。そもそもカツ丼はそば屋に多く、トンカツ屋にはカツ丼がない店も多かった。冷めたカツをダシ汁で美味しく食べる術として確立したのかは定かではないが、新潟ではカツ丼が堂々と主役を張っている。
最初に聞いたのは新潟にも「ソースカツ丼」があるという話。いろいろ調べてみると、どうもソース味ではないようだということが判明。で、実際に現地に食べに行った。初めて見た「たれカツ丼」は実にシンプル。見た目的にはかなり地味。しかし、食べてみると見た目を裏切るしっかりとした味と奥深さ。味はソースではなく醤油ベース。甘辛い味付けで、カツ以外には何ものっていない潔さ。新潟はご飯自体がうまいので、シンプルなものが合うのかもしれない。
卵でとじるカツ丼は基本的に厚さ1cm以上あるトンカツを切って煮るが、新潟のたれカツ丼は、厚さ数mmの薄いトンカツが複数枚のる。お店によって違いはあるが、衣も油切れがよくタレが絡む細かいパン粉を使用している。どちらかというと洋食の技術で作られたカツレツの流れをくむトンカツのようだ。
肉は薄くとも味がしっかりしていて、衣とのバランスの良い新潟のたれカツ丼は複数枚のってボリューム満点。海の幸もいいが、ご飯のおいしい新潟ならではのご当地カツ丼。侮ってはいけません。
昭和20年代に屋台から始まったといわれるたれカツ丼発祥の店。カツは丁寧にたたかれて柔らかく、衣はサクッとした食感に、甘辛いタレの味でご飯が進む。
たれカツ丼の名付け親となったお店。昭和40年創業の老舗で、現在はカツ丼専門店もグループにある。甘めのタレなので卵黄をつけて食べるのがおすすめ。
「ソースカツ丼」というジャンルのカツ丼があるのは東京でもたまに見かけるので知ってはいたが、全国の食べ歩きをしていて初めて“カツ丼といえばソースカツ丼”を指す町があると聞いた。長野県駒ヶ根市。カツ丼で唯一「B級ご当地グルメの祭典B‐1グランプリ」にも出展している、まちおこしに取り組み、ブランド化しているソースカツ丼である。ちなみにブランド化しているB級ご当地グルメとは、地域名+メニュー名が色々なところで紹介されるようになっているもの。「駒ヶ根のソースかつ丼」ではなく「駒ヶ根ソースかつ丼」と呼ばれるのがポイントだ。
駒ヶ根にソースかつ丼が誕生したのは昭和11年ごろ。「喜楽」の初代ご主人が考案したものとされている。駒ヶ根ソースかつ丼のスタンダードは、ご飯の上に千切りキャベツをのせて、その上にたっぷりのソースに通したトンカツをのせるというもの。卵とじのように改めて火を通すわけではないので、揚げたてのカツをいただける。どこのお店もかなりのボリュームで、大きなトンカツがのる。甘めのタレはご飯との相性が抜群で、一見こんなに食べられるかと思っても、意外にぺろりといけてしまう。
駒ヶ根ソースかつ丼のタレには、実は醤油が使われている。「ソースに醤油が入っている?」とはにわかには信じがたいが、実に深みのある味わいになっている。以前、ウスターソースを知った日本人が見よう見まねで醤油を使って工夫をしたことがあると聞いた。駒ヶ根のカツ丼のソースがそれと関係あるか否かは定かではないが、醤油が入ることで、より日本人の舌になじみやすい味になっていることは想像できる。
ちなみに隣町の伊那市もソースカツ丼を出すお店が多く、歴史あるお店もあるそうだ。一時は元祖論争などでも話題になったが、地元に愛されている美味しいお店なら、どちらが元祖であろうが食べるものにとってはあまり関係ない。味やサービスでお客様から評価されるお店が増えれば、それだけ地域の評判も上がるというものだろう。
駒ヶ根は中央アルプスと北アルプスを望むことのできる風光明媚なところ。雄大な自然ときれいな空気のもとで、歴史ある駒ヶ根ソースかつ丼を食べるのも悪くない。ただボリュームがあるので、食べあるきには向かないが……。
もともとカツの大きな駒ヶ根にあって、そのデカ盛りぶりが有名な行列のできる喫茶店。大きさだけでなく味のほうも定評がある人気店だ。
行列のできる駒ヶ根でも有名店。全国の催事にも出店するお店でオリジナルソースなども手掛ける。メニューも豊富で豚肉のうまさも評価が高い。
北海道は食材が豊かで、長い歴史がないため、あまり郷土料理がないと聞く。しかし、個人的には十分面白い料理があると思っている。訓子府(くんねっぷ)・置戸(おけと)に根付く“卵でとじないカツ丼”は、醤油ベースのたれカツ丼。ご飯に海苔が敷かれる、うな丼のタレに近い甘みのあるタレのカツ丼。なぜここにだけあるのかは定かではない。