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華々しいデビューを飾ったアイドル的列車カタログ JR名車両列伝4 JRスタートから24年。従来の国鉄の殻を破り、斬新なスタイルやサービスでデビューした当時のJR車両たちも、世代交代の時期を迎え、新型車へのバトンタッチ、リニューアルなどが行なわれています。最新車両の礎にもなった当時の名車両の数々にスポットを当て、歴史を振り返ってみましょう。

第2章 特急「ゆふいんの森」 キハ71系特急形気動車●JR九州

ヨーロッパ・レトロ調の車内 ビュッフェもあり食事も可能

 平成元年3月、博多から由布院など観光地の多い久大本線を経由し、別府を結ぶべく観光特急として誕生したのがキハ71系「ゆふいんの森」です。キハ71系はリゾート特急専用車として新風を吹き込みました。

 車体は、沿線の風景が楽しめるようハイデッカー構造となり、窓は大型固定窓の連続風として内側に傾斜してあります。先頭部は丸みを帯びてモダン。カラーはオリーブグリーンのメタリックに金帯が輝きます。ヨーロッパ・レトロ調の車内は難燃性の木材が使用され、真鍮や金メッキの装飾類、丸い蛍光灯グローブなど、ノスタルジックで豪華なイメージのものとなりました。

 編成中にはオーダーデリバリー方式のビュッフェも設けられ、食事も気軽に楽しめます。デッキから客室階段部分には鉄道車両で初のコインロッカーも設けられました(後年に廃止)。美しい車体、斬新なアイデア等は高く評価され、平成元年のグッドデザイン賞を受賞しています。性能的には、キハ71系はキハ58、キハ65形の走行装置を使用し、車体を完全に新製しています。

人気列車の「ゆふいんの森」 2代目のキハ72系も新製

 キハ71系「ゆふいんの森」は、平成3年3月改正の運転開始から大好評で、指定券が取りにくい列車となり、翌年にミニギャラリーを備えた中間車が増結されました。車内では客室乗務員「ゆふいんレディ」が親切に接し、和やかな旅路は常に人気を誇ります。

 久大本線特急はキハ71系「ゆふいんの森」と一般車で運転されていましたが、キハ71系の人気はとても高く、平成11年にはキハ71系の長所をベースに開発されたキハ72系が新製されキハ71系とともに運転。キハ72系ではビュッフェが本格化されます。

 キハ71系も平成7年から設備のリニューアルが行なわれ、座席モケットや床材の張り替えなどを実施。ビュッフェに隣り合うミニギャラリーはテーブルと椅子、窓を設けてミニサロンとし、ビュッフェと結ばれて食事がゆったり楽しめるようになりました。一部客室はグループ客にあわせて大型テーブルのあるボックスシートに変更。内装も全体がシックで落ち着いた雰囲気となり高級感が増しています。

 現在「ゆふいんの森」は博多〜由布院間の1・5号、2・6号がキハ72系で、博多〜大分間の3・4号がキハ71系で運転されています。別府まで走破するのはキハ71系のみであり、由布岳を眺めながら今なお活躍をしています。

由布岳を背景に走るキハ71系「ゆふいんの森」。大型の広窓が連続するのも同編成ならでは

リニューアル後の車内。床も深みのある色彩の木製でレトロ調。重厚で落ち着きがある

ビュッフェに隣接のミニサロン。テーブルがあり流れる風景を眺めながら飲食ができる

先頭部はワイドガラスのある特上のパノラマ席。前面展望をハイデッカーで楽しめる

 

コラム ビュフェ車のあゆみ

接する笑顔が食事の美味しさを倍増させた「つばめ」
のビュッフェ

 ビュフェ(BUFFET)は、昭和33年開業の東海道本線特急「こだま」で誕生。編成に半室ビュフェ車2両が連結されました。「気軽に利用できるコーヒースタンド兼バー」がコンセプトで本格的な食事は到着後とし、コーヒーサイホンや電熱器、電子レンジなどが軽食を提供しました。

 当初、国鉄設計陣たちは「不二家クラスの喫茶」を目指したそうですが、内容は充実し、急行電車にも普及。「江戸前にぎり寿司」「生蕎麦」「うどん」などメニューも列車ごとに特色を表し、活発に利用されていきます。後の新幹線でもビュフェは採用され、軽食堂として賑わい華やかな時代を迎えました。

 しかし、在来線では昭和40年代後半以降、人手不足などから営業休止、車両の非連結が目立ち、食堂車とともに急速に縮小。新幹線も後年同様に縮小傾向となり衰退し、現在、JR線でビュフェの営業が行なわれているのは定期列車では特急「ゆふいんの森」だけと寂しくなってしまいました。

文・写真:斉木実
※掲載されているデータは平成22年8月現在のものです。

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