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最深部は138mもあり、富士五湖でもっとも深く、透明度が高い神秘性を秘めた湖。
大月~河口湖間で運行中の特急列車。1号車は展望車両(要 着席整理券)で、「展望席」や「ラウンジ席」からは、富士山のダイナミックな景色が楽しめる。
・詳しくはこちら(富士急行)
晴れて富士山が世界遺産に登録されたことは、2020年東京オリンピック開催決定とともに、間違いなく今年最大のビッグニュースだろう。実際、この7月1日から8月31日の登山者数は、わずか2カ月で31万721人(環境省関東地方環境事務所発表)と膨大な数を記録した。世界遺産の名に恥じることなき日本一の名峰である。
だが、富士山が「信仰の対象と芸術の源泉」の名で世界遺産に登録されたのはその山体だけでなく、周囲にある神社や登山道、洞穴、湖沼など、いわゆる構成資産も含めてであることを忘れてはならない。いや、むしろ構成資産を知ってこそ富士山の本当の価値と神秘性がわかるというものだ。
そんなわけで、三保(みほ)の松原や忍野八海(おしのはっかい)など全部で25カ所ある構成資産のうち、7カ所を有する富士河口湖町へやってきた。11月上旬から中旬に最盛期を迎える湖畔の紅葉も一緒に楽しんでしまおうという魂胆である。
まず河口浅間(かわぐちあさま)神社へ。864(貞観6)年に起こった富士山大噴火を鎮めるため、その翌年に浅間大神を祀って創建された古社。参道から境内にいたるまで1000年を超える老杉が並び、思わず息をひそめてしまうほど凛とした空気が充満している。古くは富士信仰の拠点として富士講の信者で賑わい、周囲にはその人々を泊める御師(おし)の家が軒を連ねていたそうだ。
次は富士スバルラインの入口に近い船津胎内樹型(ふなつたいないじゅけい)を訪ねた。樹型とは、森林に流れ込んだ溶岩流が樹木を包み込んだまま固まり、樹木が焼失した跡にできた空洞のこと。約1000年前に8合目付近から噴出した剣丸尾(けんまるび)溶岩流が造り出したという洞内は、肋骨状に波打つ壁面やかがまないと通れないほど低く狭い通路など、まさに母の胎内を思わせる神秘的な様相。富士山の壮大な歴史とパワーを感じるスポットだ。
この場所は木花之佐久夜毘売命(このはなのさくやびめのみこと)が出産した地と伝わり、洞穴全体が無戸室(むつむろ)浅間神社になっている。富士講の信者は富士山登拝の前に胎内めぐりをし、身を清めてから山頂を目指した。
河口湖畔に戻り、紅葉を楽しみながら、武田信玄が祈願所とした冨士御室浅間(おむろせんげん)神社へ。国の重要文化財にも指定されている壮麗な社殿に参拝してから西へ向かい、西(さい)湖、精進(しょうじ)湖、本栖(もとす)湖とめぐる。澄んだ空気に映える紅葉もさることながら、見る場所によって表情を変える富士山の美しさったらない。特に本栖湖北西岸から望む「千円札の富士」はホレボレするほど。
山登りは好きだけど、こと富士山に関しては登山派よりも眺望派だな、としみじみ思った。