山陽新幹線から乗り継いだ岡山発の特急「南風」。きらめく瀬戸内海に浮かぶ島々や行き交う船を瀬戸大橋から眼下に眺めているうち、列車はあっという間に四国に上陸した。瀬戸大橋線を経由し、まるで高速道路のインターチェンジのような立体交差の線路で宇多津から予讃線に入る。それも束の間、10分も経たないうちに多度津を出れば、大きく左へ曲がって土讃線に乗り入れる。四国横断の鉄道旅行の幕開けだ。変化に富んだ車窓に期待で胸が高鳴ってきた。
「金毘羅船々」で知られた金刀比羅宮の最寄り駅・琴平。シンボルカラーの黄色い幟がはためくホームを後に、列車は最初の山越えに挑む。しかし、喘ぎ喘ぎ登るのは昔話。強力エンジンを装備し、振り子装置を付けたディーゼル特急は、カーブの連続に減速することもなく、クールな表情で軽々と山道を走っていく。
山中にひっそりとたたずむ坪尻駅はスイッチバック構造なので、ホームの近くをかすめるだけであっけなく通過。右手を見ていると、木立のまにまに吉野川がゆったり流れる小さな盆地が見えてくる。
列車は高度を下げながらどんどん右に旋回し、吉野川を一気に渡るとさらに右にカーブし続ける。180度曲がって進路を西に変えたところで、徳島線と合流する佃を通過すると、減速して阿波池田駅のホームに滑り込んでいく。高校野球で一世を風靡した池田高校は駅から近い。
奇橋「かずら橋」のミニチュアが飾られている阿波池田駅のホームをあとに、列車は再び山越えに挑む。しばらくは吉野川に沿って走り、車窓からはゴツゴツした岩が散らばる渓谷美が楽しめる。有名な小歩危(こぼけ)、大歩危(おおぼけ)だ。
天然記念物の大きな杉から命名された大杉駅を経てトンネルをいくつか抜けると、吉野川の支流・穴内川に架かる鉄橋を渡る。この鉄橋上にホームがあるのが土佐北川駅だ。通過する車内からは見逃してしまうかもしれない。
3駅先のスイッチバック駅・新改(しんがい)駅も同様だ。進行方向右手後ろの分岐したところにホームがあるので、注意していないと知らずに通り過ぎてしまうのだ。
山を下りて久しぶりの平地に差し掛かると土佐山田駅。愉快な名前の後免(ごめん)を過ぎれば、数分で「南国土佐」の中心地・高知に到着だ。