鳴子温泉郷の魅力は個性的な温泉が多いこと。黒・白・赤・緑・青・紅茶色と多彩な色だけでなく、感触もつるつる、すべすべ、ヌルヌル、さらさら、きゅるきゅる、あわあわ、こってり。香りだって硫黄臭のみならず、木材臭、金っ気、油臭……。もうあらゆるボキャブラリーを駆使しないと鳴子温泉郷は語れない。ここにまず温泉達人をも魅了する鳴子の理由がある。
しかし、リピーターになるとさらにお湯だけじゃない鳴子の奥深さにはまることになる。商店街が楽しいから、人が温かいから、というと当たり前の言葉のようだが、例えば「この店のシュークリームが食べたいから」「この魚屋さんの手作り塩辛で一杯の飲みたいから」「このおじさんのこけし作りをぼーっと眺めたいから」、さらには「この部屋のこの畳の上で大の字になりたいから」などなど。例えをいえばきりがない。ともかく、鳴子に行かないと気がすまなくなってしまうのだ。
そんな鳴子にどっぷりはまる美肌旅の始まりは、鳴子の原点、温泉神社のご神湯を引く千年湯「滝の湯」。酸性の硫黄泉に負けない総ヒバ造り、釘を使わず造り上げた芸術品級の共同湯だ。近隣の宿泊客には入浴券が支給される。ここには神の湯を大切に愛してきた鳴子の人々の心意気が生きている。隅々まで手入れされた心地よいお湯。3本の太い丸太の樋から滝落としされる源泉。手前の湯船は44度ほど、打たせ湯もできる奥の湯船は39度ほどだが、これに交互に入って決して長湯せず、すかっと出て行く地元の人たちの姿が実に粋なのだ。まずはこの滝の湯でお肌に"渇"を入れ、身体のめぐりを良くしてから鳴子の湯めぐりを始めるのが定番だ。
女性のひとり旅にもおすすめしたいお宿が、川渡(かわたび)温泉「山ふところの宿みやま」。金山杉の新館はすっきりとしたインテリア、和室の畳は生麻(きあさ)使いでご主人のこだわりとセンスを感じる宿である。黒い湯船に褐色のお湯、47.2度の自家源泉をそのまま注いでいる(寒冷期のみ加熱あり)ので、やや温めのお湯で長湯できる。木炭のような木材臭がまるで森林浴のようなアロマセラピー作用となって肌も心も癒される温泉だ。