『トレたび』は、交通新聞社が企画・制作・運営する鉄道・旅行情報満載のウェブマガジンです。
小倉駅で発車を待つ下関行きの普通電車。小倉も文豪・森鴎外ゆかりの街だが、現在の駅ビルはモノレールが飛び出すように発着して近未来的な感じがする。もし鴎外が目にしたら、さぞや驚くことだろう。
小説『舞姫』などで知られる文豪・森鴎外は文久2年(1862)、津和野で生まれた。生誕150周年にあたる今年、山陰の小京都と称される津和野の落ち着いた町並みを散策し、彼の旧宅(写真)も訪ねてみたい。
津和野の銘菓「源氏巻」。カステラのような薄い生地でこし餡を巻いた菓子で、甘さほどよく、上品な味。起源は元禄時代という「源氏巻」は当地のおみやげにぴったり。現在では抹茶餡、ゆず餡などもある。
風情あふれる萩城城下町。木戸孝允旧宅などが建ち並ぶ小路、江戸屋横町にさしかかると、維新の志士のような猫がどこからか姿を見せた。たまたまだったのだろうが、近くには「猫の丁」もあり、猫の伝説も残っている。
フォトジェニックな町、萩。藍場川沿いの風景も心に残る。この藍場川、実は人工の水路だという。しかし、萩の情景にすっかり溶け込み、流れに沿って散策するのもおすすめ。旧湯川家屋敷のたたずまいもいい。
日本海に面し、海の幸にも恵まれた萩。特に夏場は「瀬つきのアジ」がおいしい。これは萩の沖にすみついているアジで、脂ののりもよく、寿司などでぜひ食べてみたい。津和野への道すがら、新山口でも味わえる。
博多駅から山陰の小京都、津和野や萩を訪ねる1泊2日のぐるり旅。津和野といえば文豪、森鴎外誕生の地。今年は生誕150周年にあたり、この機会に彼の原点を探訪してみよう。
下関行きの電車に乗り継ぐ駅、小倉。軍医だった鴎外はドイツ留学の後、やがて小倉にも赴任している。彼の小説『舞姫』などを読みながらの旅もいい。
車窓では家々の屋根瓦にも注目を。津和野に向かうにつれて赤茶色の「石州(せきしゅう)瓦」の民家が増え、独特の色合いが旅情を誘う。
津和野は山口線にあるせいか、よく山口県にあると間違われるらしい。その山口線には春から秋にかけて週末を中心に蒸気機関車牽引列車、「SLやまぐち号」が運転されている。全車指定席の快速列車であり、「青春18きっぷ」の場合、別途指定席券(510円)の購入で乗車OK。新山口10時48分発で津和野12時46分着、博多をもう少し早く出発すれば間に合うので、ノスタルジックな蒸気機関車の旅に変更するのもおすすめだ。
静かな津和野の町を散策し、山陰本線との接続駅、益田へ。列車待ちの時間、当地ゆかりの水墨画家、雪舟の記念館等へ行くにはタクシーが便利と思う。
萩市の代表駅、東萩駅には18時40分着。ここから送迎をする宿も多く、今宵は萩の宿でのんびり羽を伸ばそう。
毛利36万石の城下町として、また、幕末・明治維新の志士を数多く輩出し、“維新のふるさと”としても知られる萩。2日目は市内をゆっくりと見て回ろう。折しも7月1日から9月30日まで「萩・長門・美祢(みね)キャンペーン 歴史と自然 特別な夏を過ごす旅」が開催されている。かの時代を駆け抜けた木戸孝允(たかよし)、高杉晋作らの足跡をたどってみれば、萩ならではの歴史浪漫に触れられる。
古い町並みも美しい萩。萩城跡より木戸孝允旧宅もある江戸屋横町へと歩けば、気分は江戸時代さながら。あたりには「猫の丁」という名の通りがあり、猫伝説も残っている。そして、藍場川沿いの散策もお気に入り。萩らしい情景はフォトジェニックだ。
鉄道とも縁が深い萩。日本の鉄道の父、井上勝も萩の出身と聞く。鉄道ファンなら井上勝旧宅跡(外観のみ見学可)や、東萩駅のお隣、現在は鉄道記念館となっている萩駅駅舎(登録有形文化財)を訪ねてみよう。
萩から博多への帰路は、ぐるっと山陰本線を経由。車窓には日本海が迫り、その澄み切った青さが心に焼き付く。
萩では8月1日から3日に「萩夏まつり」が開かれ、8月1日の夜には花火大会もある。一方、津和野では7月20日・27日に優雅な鷺舞(さぎまい)の行事が開かれる。これらイベントに合わせてプランを組み替え、とっておきの旅を楽しむのも、きっと良き想い出になるだろう。
駅名 | 時間 | 旅のひとことアドバイス | |
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1 日 目 |
博多発 | 8:07 | 鹿児島本線、小倉行き快速(土曜日・休日は、博多8:08発) |
小倉着 | 9:11 | 乗り換え(土曜日・休日は、小倉9:12着) | |
小倉発 | 9:41 | 下関行き普通列車で関門トンネルをくぐり、本州へ | |
下関着 | 10:00 | 乗り換え | |
下関発 | 10:03 | 徳山行き普通列車 ※水曜運休(ただし、7・8月の水曜は運転) | |
新山口着 | 11:11 | 乗り換え | |
新山口発 | 11:18 | 益田行き普通列車 | |
津和野着 | 13:04 | 鴎外ゆかりの津和野を散策 | |
津和野発 | 15:20 | 益田行き普通列車 | |
益田着 | 16:00 | 水墨画家・雪舟ゆかりの益田を散策 | |
益田発 | 17:21 | 山陰本線、下関行き普通列車 | |
東萩着 | 18:40 | 萩市の代表駅、東萩駅で下車。宿へ。 | |
2 日 目 |
東萩発 | 14:43 | 長門市行き普通列車(隣の萩駅から乗車の場合は、14:48発) |
長門市着 | 15:20 | 乗り換え | |
長門市発 | 15:24 | 小串行き普通列車 | |
小串着 | 16:35 | 乗り換え | |
小串発 | 16:39 | 下関行き普通列車 | |
下関着 | 17:27 | 乗り換え | |
下関発 | 17:52 | 中津行き普通列車で再び関門トンネルをくぐり九州へ | |
小倉着 | 18:05 | 乗り換え | |
小倉発 | 18:11 | 鹿児島本線、荒尾行き快速 | |
博多着 | 19:21 | 旅の終わり |
昭和57年4月の時刻表で本プラン初日の行程を再現すると、ほぼ同時刻に出発の場合、博多8:02発→小郡(現・新山口)11:08着。小郡12:25発→津和野14:16着。津和野15:43発→益田16:26着。益田17:59発→東萩19:31頃着となった。列車の接続は今のほうが良い感じで、普通運賃は3,800円だった。
山口線のシンボル、「SLやまぐち号」。運転開始は「青春18きっぷ」よりも古い昭和54年(1979)。“主役”のSL、C57 1は昭和12年(1937)生まれで、今年は製造75周年にあたる。写真は昭和54年当時のもの。
写真家、パズル作家。「青春18きっぷ」歴はちょうど18年、日本のすべての都道府県を夫婦で3巡している。
著書(夫婦の共著)は写真集『猫ヶ島』、『わらいねこ』をはじめ、『旅してでも食べたい 地もの旬もの回転寿司』など。
ホームページ http://www.aizawa22.com
文・写真:相澤秀仁&京子
※掲載されているデータは平成24年6月22日現在のものです。