『トレたび』は、交通新聞社が企画・制作・運営する鉄道・旅行情報満載のウェブマガジンです。
時に春らしい黄色い電車もやってくる山陽本線。尾道へ向かう際、1つ手前の東尾道駅から尾道駅へさしかかる風景をお見逃しなく。作家、林芙美子が『放浪記』に描いた懐かしい風景が車窓に広がる
駅前がすぐに海となる尾道。海を前にして駅の方を仰げば、背後には坂の町と千光寺山の風景が見える。とりわけ目立つ尾道城は、東京オリンピックの年、1964年(昭和39年)に建てられた天守閣風の建築物
尾道駅近くにある作家、林芙美子の像。多感な青春時代を当地で過ごした彼女にとって、尾道ほど懐かしい町はなかったのだろう。初めて訪れた旅人にとってもどこか懐かしく、青春の時間がよみがえるよう
春、尾道周辺ではタコも旬となる。さまざまな料理法があるものの、ほっぺが落ちそうになるくらいおいしい一つが「タコ飯」。タコの風味がしみたご飯はたまらない旨さだ。「タコ飯」を食べていざ散策!
「尾の道」そのままに、細くくねくねした坂道はまるで「猫の尾」のよう。車が入ってこない坂道では猫がのんびり日向ぼっこすることも。瀬戸の穏やかな春風吹く尾道では、猫まで穏やかで人懐っこい感じがする
尾道は、ラーメンどころとしても知られている。尾道のラーメンは、醤油味のスープに豚の背脂が浮かぶものが多い。思ったよりもすっきりした味わいで、文学散歩の締めくくりに食べてみたい
波穏やかな瀬戸内海に面した山陽地方。古くから海上交通が盛んだったこの地方も明治時代に鉄道が開通し、以後、旅行の主役は鉄道に。21世紀の今、車両の性能も格段に向上し、大阪から広島県の尾道まで、普通列車や快速列車の利用でも片道4時間半ほど、日帰り旅行も楽々可能になった。
人々にとって旅を身近なものに変えていく鉄道。春風かおる尾道にもたくさんの旅人が訪れ、そのなかには『暗夜行路』などで知られる文豪、志賀直哉の姿も。東京を離れ、尾道に一時移り住んで『暗夜行路』の草案をしたためた志賀直哉。彼が尾道を選んだ理由は、友人が旅の途中、列車から眺めた尾道の風景にあったといわれている。
尾道の風景の中でもとりわけ尾道らしいのが、山陽本線の下り列車に乗り、1駅手前の東尾道から尾道へさしかかるあたり。狭い尾道水道の海が迫り、背後には千光寺山の懐に坂の町が広がっている。派手さはなくともどこか懐かしさ漂う尾道、ここは駅を一歩出れば目の前に海が見え、町へ入れば、ふと旧友が「やあ、久しぶり」と声をかけてきそうな気配。
ここ尾道といえば、『放浪記』で知られる作家、林芙美子もゆかりの人。彼女は尾道で女学校に通い、多感な青春時代を過ごしている。『放浪記』でも「海が見えた。海が見える。」と、尾道にさしかかる列車から見た風景を懐かしそうに描写していた。
志賀直哉の『城の崎にて』をはじめ、川端康成の『雪国』なども同様、鉄道によって旅が広がり名作も世に出たのだろう。
懐かしい風景が文人にも愛された尾道。その魅力に触れる前に、まずは腹ごしらえを。尾道は瀬戸内だけに海の幸がいろいろ。特に春はタコがおいしい季節。春のタコは「木の芽ダコ」とも呼ばれ、やわらかな身には甘さも感じられる。タコ飯や、天ぷら、タコ天丼などでぜひ味わってみたい。
千光寺山へ続く坂の町、尾道。25もの文学碑がある「文学のこみち」をのんびりと歩き、志賀直哉が『暗夜行路』の草案を練った旧居を訪ねれば、彼も眺めた尾道の風景が気持ちよく見渡せる。
瀬戸の風、穏やかな時間。尾道の魅力の一端を感じつつ坂道を下り、目指すは尾道ラーメンのお店。尾道はラーメンどころとしても知られ、文学散歩で減ったお腹を熱々のラーメンで満たそう。
大阪から尾道へ、おトクな青春18きっぷの旅。日帰りはもちろん、尾道や隣の福山で1泊してもまだまだおトク。プランを1泊に変更し、翌日は鞆(とも)の浦などを観光して帰阪するのもおすすめだ。
駅名 | 時間 | 旅のひとことアドバイス | |
---|---|---|---|
1 日 目 |
大阪 発 | 7:56 | 東海道・山陽本線、新快速(土休日は8:00発、播州赤穂行き) |
姫路 着 | 9:03 | 乗り換え | |
姫路 発 | 9:10 | 山陽本線、普通列車 | |
相生 着 | 9:29 | 乗り換え(土休日も9:29着) | |
相生 発 | 9:33 | 山陽本線、普通列車 | |
岡山 着 | 10:39 | 乗り換え(ゆっくりトイレ休憩) | |
岡山 発 | 11:10 | 山陽本線、普通列車 | |
尾道 着 | 12:28 | ランチ&坂道さんぽ | |
尾道 発 | 17:50 | 山陽本線、普通列車 | |
岡山 着 | 19:15 | 乗り換え | |
岡山 発 | 19:16 | 山陽本線、普通列車 | |
姫路 着 | 20:40 | 乗り換え(土休日は20:41着) | |
姫路 発 | 20:42 | 山陽・東海道本線、新快速(土休日は20:57発) | |
大阪 着 | 21:43 | 旅の終わり(土休日は21:58着) |
尾道のシンボルともいえる千光寺公園は、市内きっての桜名所。標高144mほどの千光寺山にあり、ソメイヨシノなど約1500本もの桜が公園一円に咲く。
例年4月上旬が見頃で、瀬戸内海の風景とともに眺める桜もまた格別。
桜が花を添える季節の尾道文学散歩、開花状況のチェックをお忘れなく。
春の尾道で写した桜。桜は尾道市の「市の花」にもなっている。桜がそこここに咲く尾道、路地を歩き、坂道の上り下りに疲れたら桜の傍らで小休止を。列車の窓から見る桜といい、桜は人々の心を癒やしてくれる
写真家、パズル作家。日本のすべての都道府県を夫婦で4巡し、「青春18きっぷ」歴は20年目に。
著書(夫婦の共著)は写真集『猫ヶ島』『わらいねこ』をはじめ、『旅してでも食べたい 地もの旬もの回転寿司』など。
夫婦旅ブログ http://fullmoon.aizawa22.com
文・写真:相澤秀仁&京子
※掲載されているデータは2014年3月現在のものです。