今年開業100周年を迎えた100年レイル「肥薩線」は、3つの個性的な区間からなるホットなローカル線だ。平成21年4月からは豊肥本線で「SLあそBOY」として活躍し、2
度目の復活を遂げた名機ハチロク形SLによる「SL人吉」が走り始め、レトロな汽車旅が人気を博している。
八代駅を出発すると、列車は人吉駅まで急流で知られる球磨川沿いをひた走る。通称“川線”と呼ばれる景勝区間で、球磨川大橋を横切ったあたりから川の両側に緑があふれてくる。途中の一勝地(いっしょうち)駅は縁起のいい駅名として知られ、入場券を買い求める人が多い。球磨川を右に左に見ながら特急なら1時間、SLなら1時間半ほどで人吉駅に到着だ。
八代~人吉駅間の“川線”に対し、人吉~吉松駅間は通称“山線”といい、矢岳(やたけ)越えの難所だ。山深い地形を苦労して建設した先人たちの努力が偲ばれる。
まずはループ線で勾配を登るが、途中の大畑(おこば)駅は日本初のスイッチバックの駅である。列車本数が極めて少ないので、途中下車は無理だが、幸い観光列車「いさぶろう・しんぺい号」は各駅の停車時間が長く、駅見学にはもってこいだ。
SL展示館のある矢岳駅を出て、長大な矢岳トンネルを抜けたところが、日本三大車窓のひとつ「矢岳越え」。晴れていれば遠く桜島も見渡せる霧島連峰の絶景が続く。次の真幸(まさき)もスイッチバック駅で、ホームにある「幸せの鐘」を鳴らしたり、石庭風に掃き清められた構内を見学したりする時間を取ってくれる。変化に富んだ1時間あまりの“山線”の旅は吉松で終了だ。
吉松駅からは真っ黒な車体の特急「はやとの風」に乗り継ぐ。大隈横川(おおすみよこがわ)駅は、その先にある嘉例川(かれいがわ)駅ととも国の登録有形文化財で、肥薩線開業以来の木造駅舎だ。戦時中、機銃掃射で撃ち抜かれた痕跡がホーム上の柱に残っていて生々しい。
霧島温泉駅に停車して、さらに進むと嘉例川だ。味わいある駅舎を5分停車の間にじっくり観賞したい。無人駅だが、地元の人々による手入れが行き届いた駅舎は実に居心地がよく、テレビ番組でも有名になった名誉駅長さんが駅を大切に守っている。
のどかな山村地帯を走り抜けると隼人駅に着く。吉松から1時間余り。古代隼人族にちなんで竹細工で飾られた駅舎が目にまぶしい。「はやとの風」はここから日豊本線に乗り入れ、“薩摩隼人”よろしく錦江湾沿いを一路、鹿児島中央駅を目指す。