ラウンジカー。青色のイスや緑色のロングソファーが並ぶカラフルな車内。大きな窓に暮れゆく空が広がっていく
『トレたび』は、交通新聞社が企画・制作・運営する鉄道・旅行情報満載のウェブマガジンです。
ラウンジカー。青色のイスや緑色のロングソファーが並ぶカラフルな車内。大きな窓に暮れゆく空が広がっていく
運よく手に入れたスイート展望室タイプは、1号車の先端にある。室内を探索してみると、正面に3面のガラスの窓が備わり、その側には淡い紫色のソファーが並ぶ。同じ色のカバーが掛けられたツインのベッド、液晶テレビ、シャワールーム、クローゼット、鏡……。まさにホテルのようなしつらえだ。
あちこち見ているうちに列車は札幌駅を出発。ほどなくしてウェルカムドリンクが運ばれてきた。全ての乗客に提供されるサービスだけれど、スイートの乗客にはミニバーセットが届く。まずはワインで旅の始まりを乾杯。広くて快適な室内に思わず頬が緩む。
12両編成の最後部(函館~青森間は逆向き)にあるラウンジカーに行くと、お父さんと少年が車窓を眺めて大はしゃぎ。見晴らしのいい2階席に360度回転するイスやソファーが備わり、大きな窓にどこまでも広い牧草地が映る。
列車が紫色の空の下を走る頃、食堂車でディナータイムが始まった。明るいグレーに統一された車内は清潔感に溢れ、テーブルの上の生花がほっと心を和ませる。料理は事前予約が必要で、フランス料理か懐石御膳を選んでおく。今回は海の幸や牛ヒレ肉が使われたフランス料理を味わった。締め括りにデザートとコーヒー。本格的なコース料理を列車で味わえるなんて感激だ。
函館駅に着くと、先ほどまで先頭を走っていた機関車の付替えが行われ、青森まではスイート展望室の前に視界を遮るものがなくなる。列車が走り出した後、3面の窓には、まるで映画のスクリーンのように函館の夜景が映し出される。漆黒の中に揺れる黄、青、緑色など色々な明かり。ずっと眺めていても飽きることがない。
気分を良くしたままベッドに転がり、迎えた朝。もう窓の外は明るくて、刈り取られた畑に赤々とした朝日が照り付けている。「モーニングコーヒーでございます」というアテンダントの女性の声に飛び起きて、熱いコーヒーをすする。一瞬、列車にいることも忘れてしまいそう。上野に着くまでもうしばらくの間、流れ行く景色に包まれてゆったり過ごすことにしよう。
オール2階建て、オール2人用A寝台個室、ダイニングカーにラウンジカーとまさに「走るホテル」の称号にふさわしいブルートレイン。快適な個室で一息ついたら、ラウンジカーなどの共用スペースで車窓を満喫してください。特に、下り列車なら、夜明けを迎え、北海道駒ケ岳を背に内浦湾の水平線に漁火が浮かぶ車窓風景は必見です。また、列車と機関車の向きを把握すれば、眺望が倍楽しめます。たとえば、カシオペアスイート展望室を楽しむなら下り列車をチョイス。上り列車なら、ラウンジカーでの眺望をおすすめします。
鉄道を撮りはじめて30年以上、「マシマ・レールウェイ・ピクチャーズ」の主力カメラマン。『車窓で旅する日本列島 東日本編・西日本編』(各1680円・小社刊)も発売中。
文=福島恵美
写真=マシマ・レイルウェイ・ピクチャーズ
※掲載されているデータは平成22年10月現在のものです。
※ 月刊『旅の手帖』2008年12月号より転載、再構成。