『トレたび』は、交通新聞社が企画・制作・運営する鉄道・旅行情報満載のウェブマガジンです。
東京都出身。ドラマ化された『孤独のグルメ』(谷口ジローとの共著・扶桑社)、『花のズボラ飯』(水沢悦子との共著・秋田書店)ほか、漫画、エッセイ、音楽など多方面で創作活動を展開中。7月からテレビ東京系でドラマ『孤独のグルメ』の第4シーズンが放映決定。
八戸(青森県八戸市)から久慈(岩手県久慈市)までの24駅64.9km。昨年5月に三陸復興国立公園に指定された種差(たねさし)海岸ほか、三陸沿岸を行く路線。土日中心に走る観光列車「リゾートうみねこ」も人気。
しばらく行くと道路と線路はまた海に近づいた。ゴルフ場のような緑の芝生があり、そこに松林がある。そこを越えるといきなり芝生が広がった。何だここは? ゴルフ場ではない。「種差(たねさし)天然芝地」と書いてある。天然? 見たこともない風景だ。
ゆるやかに波打ちながら海に向かって傾斜した広い芝生。その向こうに岩が立ち並び、その背景は紺碧の海。一直線の水平線。若い親子連れが写真を撮っていたが、観光客はほとんどいなくて、シュールな美しさ。しばしぼーっとする。ここが本日のゴール、種差海岸駅の駅前とは素晴らしいエンディング。約5時間の散歩。
大きな「種差食堂」がある。入るしかない。入ったらストーブがついていたのでビックリ。でも暑くはない。客はボクひとり。ビールを頼んで飲んでいたら、あとから老人客が3人で入ってきた。観光で来たようだ。ラーメンを頼んだら、実にオーソドックスな昔っぽい醤油ラーメンだったが、ナルトのピンクと白が反転していた。なんだかおかしくなって笑う。おいしかった。
駅はすぐだった。予定より1時間半以上早い列車で本八戸に戻る。車内ではすぐ寝てしまい、せっかくの風景をほとんど見られなかった。新幹線まで時間があったので、駅のすぐそばの温泉銭湯「ほんぱちぬっく」でひと風呂浴びる。実は朝から密かにこれ狙っていた。広々として明るく、最高にいい湯だった。新幹線に乗る前、ビールのつまみに買ったわっぱ飯が予想を遥かに超えておいしくてビックリする。ウニもイクラもカニもメカブももれなくウマい。八戸恐るべし、と唸りつつ、シアワセな気分で帰京。
※「旅の手帖」2014年7月号より掲載しました。