『トレたび』は、交通新聞社が企画・制作・運営する鉄道・旅行情報満載のウェブマガジンです。
東京都出身。ドラマ化された『孤独のグルメ』(谷口ジローとの共著・扶桑社)、『花のズボラ飯』(水沢悦子との共著・秋田書店)ほか、漫画、エッセイ、音楽など多方面で創作活動を展開中。
滝川(滝川市)から根室(根室市)まで443.8㎞、68駅を結ぶ長大な路線。今回は夏場に霧が多発する「霧の町」釧路から大楽毛(おたのしけ)まで、釧路市内を10㎞程度歩いた。
東京の8月の猛暑を逃れて、北海道・釧路に飛んだ。釧路から根室本線につたい歩きしようという魂胆だ。釧路は「霧の町」とも言われているようで、夏に霧が発生するらしい。霧の中のつたい歩きなんて、ロマンティックだ。ところが台風の影響で、到着した夜の釧路空港は雨。宿でひと風呂浴びて表に出たら、雨は止んでいて、濃い夜霧! いきなり幻想的。夏に、おでんで酒がウマい。
翌朝はからっと晴れたいい天気。東京とは大違いの爽やかさ。Tシャツの上に長袖シャツを着て出る。日差しは弱くないが、木陰に入ると涼しい。駅前から根室本線に沿った国道を西に歩き始める。道路も広いし、ビルも少ないから空が広い。夏休み中の小学校の前を通ったが、校内の立ち木も東京と全然違う。
道すがらでっかいガスタンクが並ぶ。今、いろいろエネルギー問題が議論されているが、冬が長く厳しい北海道では深刻な問題なのではないかと思った。個人の家も、たいてい玄関のドアが二重になっていて、家の脇に大きな灯油タンクが備え付けてある。
ディズニーランドみたいに大きな駐車場があって、でも車がほとんど停まっていない。何だと思ったらこれがパチンコパーラー。10時からの開店なのだが、もう入口に並んでる人たちがいた。少し行くと、ちらっと海が見えた。海面が茶色い。目を疑う。
国道が線路をまたぐところから、JRの車庫らしき建物が見え、その外にひどく錆びた特急列車と、今はほとんど見かけなくなった貨物列車の車掌車らしきものが並んでいた。ボクは小さな頃、車掌車にすごく憧れていた。母の郷里の山梨で、夏休みの夕方、中央本線の長い長い貨物列車を数えた。その最後の車掌車の、オレンジ色の淋しい窓明かりにわけもわからず胸が締め付けられた。そこには車掌さんが乗っていて、貨物と一緒に遠くへ行くのだ。この日の釧路の車掌車は小さくて、でも新しく見えた。まだ現役なのだろうか。車掌車に乗るのは、ボクの見果てぬ夢のひとつだ。