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久住 昌之 Kusumi Masayuki (文・写真・画)

東京都出身。ドラマ化された『孤独のグルメ』(谷口ジローとの共著・扶桑社)、『花のズボラ飯』(水沢悦子との共著・秋田書店)ほか、漫画、エッセイ、音楽など多方面で創作活動を展開中。

根室本線 ねむろほんせん

滝川(滝川市)から根室(根室市)まで443.8㎞、68駅を結ぶ長大な路線。今回は夏場に霧が多発する「霧の町」釧路から大楽毛(おたのしけ)まで、釧路市内を10㎞程度歩いた。

 

 何となく海を見た感激がないまま、大楽毛(おたのしけ)駅に戻る。錆びまくってる古い跨線橋をえっちらおっちら登る。駅は無人駅ではなく、駅舎には「かもめ食堂」というのも併設されているが、昼はやってないようだった。駅のまわりには「ラーメンと餅・甘善」一軒しかなかった。腹は減っている。が、ラーメンと、餅。聞いたことのない組み合わせの店だ。店舗は新しいが、なんとなく長くやってる雰囲気がある。どうなんだ、ここ。

 あと35分で列車が来る。でもラーメンなら、ここで食べてギリギリ間に合うかもしれない。これを逃すと次の列車は約1時間半後。次ので帰って、釧路でゆっくりウマそうな店を見つけるか。一瞬、駅に向かい始めた。が、「いや、ここで食うのが俺だろう!」と店の方に戻る。入店。店の空気がモワンと暑かった。「失敗したか」と思う。大きなストーブが出したまま。さすが北海道。

 昼時で意外にも店は混んでおり、みな無言でラーメンをすすっている。こういう時はビールを飲んで様子を見るのだが、ビールがない。車で来る人が多いからか。壁のメニューを見たら、一番最初が「餅入りチャーシューメン750円」だった。全然食べたくない。メニューに仕切りをつけて、大福餅、草大福、くるみ大福、おはぎ、串だんご、切り餅があった。看板に偽りなしだ。ボクは「ラーメン正油550円」を頼んだ。これが、ウマかった! ボクの大好きな普通のラーメン。その普通のラーメンの、ウマいやつ。ひとつも「どうだ!」というところがない、毎日でも食べたいようなラーメンだった。この店にして大正解だった。


このラーメン体験をボクは一生忘れない

 そんなわけで、最後まで楽しいつたい歩きだった。列車にも間に合い、釧路に早く着いたので、銭湯を探し、大正時代からやっているという「白山湯」を発見。汗を流す。

 銭湯を出ると、隣にこれまたシブイシブイ「かめや食堂」を発見してしまう。シブイ役者みたいな歳とった店主がいて、あとはおばちゃん客がひとりテレビを見ていた。今がいつの時代か忘れそうな店。ビールを注文。ゆっくり飲む。風呂上がり、ひと呼吸置いた冷たいビールがウマい。アテは素朴なハムエッグ。半熟卵に醤油をたらし、コショウを振る。キャベツにソース。まだ午後2時。外の明るい日差しがガラス越しに入っている。夏の北海道の、観光ガイドに絶対出てない贅沢。

※「旅の手帖」2014年10月号より掲載しました。

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