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久住 昌之 Kusumi Masayuki (文・写真・画)

東京都出身。ドラマ化された『孤独のグルメ』(谷口ジローとの共著・扶桑社)、『花のズボラ飯』(水沢悦子との共著・秋田書店)ほか、漫画、エッセイ、音楽など多方面で創作活動を展開中。グルメマンガ『孤独のグルメ2』(扶桑社)18年ぶりの第2弾がついに発売。

内部線 うつべせん

あすなろう四日市から内部(ともに三重県四日市市)までの5.7㎞、8駅。「ナローゲージ」と呼ばれる狭い線路幅の路線で、マッチ箱のような車両がかわいらしい。日永駅から分岐する八王子線(1駅)も希少なナローゲージの路線だ。

 そこから街道でなく、裏道を歩く。天気がよく、気持ちいい。道に映る影の濃さに秋の気配を感じる。かがんで庭の草むしりをしている人がいる。道端のザクロが大きな実をつけてる。ものすごく静か。大蓮寺という寺があったので境内でひと休みする。誰もいない。時計を見るとちょうど12時だった。

 また少し行くと、塀や壁にいろいろな人形や植物がかけられた不思議な民家があり「営業中」と書いてあるが、入口はすごく狭く中も見えず、とても店には見えない。「手羽の極」と書いてある。なんだろうこれは。と思いつつ通り過ぎた。


営業中と書いてあるが入るのが怖い「手羽の極」。
素通りして後で大後悔

 今これを書きながら「手羽の極」で検索したら、すぐ出てきた。有名な鶏の手羽先専門店だった! 1日限定40袋で、通販もやっている。写真も出ていて、ウマそう。勇気を出して訪ねてみればよかった。内部線小古曽(おごそ)駅近くの住宅街にある。ボクが今後、ここに行くことは、まずないだろう。悔しい。だが、これも旅だ。

 12時18分。引き込み線に停止しているクリーム色と紺色の車両が見えた。へえ、あんな車両もあるのか、と思って近づくと、中のシートにビニールがかかっている。まだピカピカの新車両らしい。これはいいものが見られた。大きな一眼レフカメラで、黙々とこの車両を撮っている青年がいた。

 ジャスト12時30分、終点内部駅到着。駅周辺には飲食店が見当たらなかったので、すぐにパステルグリーンの車両に乗り込む。おお! ひとり掛けの座席が前を向いて、両サイドに並んでいる。中はこうなっていたのか。これは珍しい。


おお、中はこうなっていたのか。シングルシートが楽しい。
体感もよろし

 隣の車両は普通の長いシートだ。動き出すと左右にゴトゴト揺れて、いかにも小さな電車に乗っているのが体感できる。これは乗り鉄にはタマラナイのではないか。8駅、約20分の電車旅だ。

 戻ってきた四日市では歩いて見つけたシブイ「あさひ食堂」で真昼のビールと、アジフライ。熱々にウスターソースをじゃぶじゃぶかけて食べる関西流。そして肉うどん。肉が牛肉なのも関西圏だ。おいしかった。

※「旅の手帖」2015年11月号より掲載しました。

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