『トレたび』は、交通新聞社が企画・制作・運営する鉄道・旅行情報満載のウェブマガジンです。
東京都出身。ドラマ化された『孤独のグルメ』(谷口ジローとの共著・扶桑社)、『花のズボラ飯』(水沢悦子との共著・秋田書店)ほか、漫画、エッセイ、音楽など多方面で創作活動を展開中。
御坊駅から西御坊駅(ともに和歌山県御坊市)までの2.7㎞、5駅。昭和3年に御坊臨港鉄道として営業を開始した私鉄。国や地方公共団体が出資する第三セクター鉄道を含めると芝山鉄道(2.2㎞、千葉県)が最短の鉄道会社。今回途中で見つけた「創業80周年」は平成20年に作られたものがそのままあった模様。
駅が現れた。学門駅。学問ではないが、字面が面白い。駅名板を正面から撮りたいが、そのためには線路構内に入らねばならず断念。と、思っていたら御坊方面から列車がやってきた。そこを過ぎて少し行くと小さなミカン畑。すごい。ビッシリミカンがなっている。思わず1個、もいで食べようか。と思ったが、写真に撮って、我慢。
ちょっと町場に入ってきた。道が広くなり、車も増えた。本町か。すぐに紀伊御坊駅。単線にしては鉄筋で大きな駅だ。駅舎に入ると「駅なか・いっぷく停」と書いてあって応接セットがあった。面白い。「おかげさまで創業80周年」と貼ってあり、紀州鉄道のオリジナルマグカップやカンバッジを売っている。ホームに出ると、線路の向こうに旧車両が停まっていた。昔の車両は味がある。
保育園や塾や教会があって、御坊教育委員会の小さなビルが現れた。御影石に市民憲章が彫り込まれている。旅館旅路という古そうな旅館があった。名前に旅がダブっている。老人保健施設プラトンも名前が妙で気になった。ラーメン屋BIRDMANも不思議店名。
また踏切の音。今度は御坊方面に向かう車両を逆光でなく順光で捉えることができた。すぐに市役所前駅。この辺から線路に近い道がなくなり、熊野街道という車道を少し歩くと、斜めに御坊駅に入っていく小道があった。
終点西御坊駅到着。11時45分。歩き始めて約1時間半。毎回そうだけれど、ずいぶんジグザグに歩いたので、線路の全長よりはかなり長い距離を歩いた。でもまだお昼前だ。
西御坊駅舎はかなり古そうだ。外装はかなりリフォームしてあるようだが、階段や石垣造りのホームは80数年前のままと思われる。「西御坊驛」という板看板がシブイ。だが無人駅。構内はガランとしていて、低い天井は波打っていた。相当古そうな木のベンチが置いてあり、座って少し休む。
壁には昔のこの駅のモノクロ写真が貼ってある。昭和30年のホームには、大人から子供までのたくさんの利用客が電車を待っている。夏であろう、みな白い半袖シャツを着ている。駅のトタン屋根はうねっていて、土壁も剥がれ落ちており、すでに今よりボロい。でも駅には活気に満ちて見える。まだ世の中が車社会になる前だ。