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久住 昌之 Kusumi Masayuki (文・写真・画)

東京都出身。ドラマ化された『孤独のグルメ』(谷口ジローとの共著・扶桑社)、『花のズボラ飯』(水沢悦子との共著・秋田書店)ほか、漫画、エッセイ、音楽など多方面で創作活動を展開中。

紀州鉄道 きしゅうてつどう

御坊駅から西御坊駅(ともに和歌山県御坊市)までの2.7㎞、5駅。昭和3年に御坊臨港鉄道として営業を開始した私鉄。国や地方公共団体が出資する第三セクター鉄道を含めると芝山鉄道(2.2㎞、千葉県)が最短の鉄道会社。今回途中で見つけた「創業80周年」は平成20年に作られたものがそのままあった模様。

 駅の近くに松原通り商店街というアーチがあったので、行ってみることにする。古い呉服店、和菓子店があった。こういう店がある通りには歴史がある。レトロになりっぱなしの表具店。家がみながっしりして立派だが、シャッターが閉じたままの店も多く、ひっそりしている。売り家もしばしばあったが、買い手が付くと思えない古さだ。廃屋も多い。

 造り醤油店の前を通ると醤油のいい香りがプーンとして、腹が減る。旧跡・日高御坊(ひだかごぼう)。鐘楼や鼓楼も有する立派な古い寺。中をのぞくと敷地の一部が幼稚園になっているようだ。大きなイチョウの木が黄葉している。その昔、御坊は寺町として栄えたのだろう。立派な家々が古びるままになっている。

 そんな町を歩き回って食べ物屋を探すが、見事に一軒もない。時代の移行は繁華街の場所を移動させる。車社会になり、経済第一主義になると、駐車場完備の郊外大型店に消費は集中する。この傾向は地方では顕著だ。個人店、駅前、小さな町は、それに伴いさびれていく。全国をつたい歩きしてきて、それを見るたび心が痛む。西御坊駅の古い写真の人々は、今のボクらより心が豊かで、家族の繋がりや近所付き合いも、近しく強く温かかったに違いない。


西御坊の駅周辺は昔の寺町風情が残るが、静かすぎる

 結局西御坊駅前まで戻り、結局ここしかなかった「ファミリーなかむら亭」に入ったのはちょうど午後1時。客は誰もいなかったが、関西弁バリバリのおじちゃんおばちゃんはすごく親しみにあふれていて、サビシくなりかけた気持ちがものすごく救われる。「どちらから来られたんですか?」というので「東京です」というと「ふぉー!」と首を振って驚いたのがまた面白かった。いかにも家庭的なソース焼きそばが、ことさらおいしく感じられた。この店にしてよかった。

※「旅の手帖」2016年2月号より掲載しました。

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