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久住 昌之 Kusumi Masayuki (文・写真・画)

東京都出身。ドラマ化された『孤独のグルメ』(谷口ジローとの共著・扶桑社)、『花のズボラ飯』(水沢悦子との共著・秋田書店)ほか、漫画、エッセイ、音楽など多方面で創作活動を展開中。焼肉、ラーメン、カレーライスなど、愛する26品目のメニューについて語ったエッセイ『食い意地クン』(新潮社)がついに文庫化。

佐世保線 させぼせん

肥前山口(佐賀県江北町)から佐世保(長崎県佐世保市)まで全14駅。48.8km。明治31(1898)年1月に全通している歴史ある路線。博多から佐世保行きの特急みどりが運行。特急ハウステンボスも佐世保線を経由する。

 

 翌日、まず上有田まで佐世保線に乗って行く。2両編成のワンマンカー。なんかすごく洒落てる。年配の夫婦客の奥さんが「かっこええな。ロンドンみたいや」と言って写真を撮っていた。座席も頭のクッションの形とかすごく変わっている。
 車窓から水田が見える。佐賀は九州随一の米どころと聞いたことがある。山はあまり高くない。なんでもない風景を「初佐賀、初佐賀」と思って食い入るように眺める。上有田で降りて有田までが午前中のつたい歩きだ。有田焼の有田が佐賀県というのも今の今まで知らなかった。いい歳して無知な俺。

 佐世保線沿いの旧道に向かう。その道すがら小さなお城みたいな「有田焼のデパート丸兄商社」というのがあって目立っている。「有田最大の展示場と豊富な品揃え!」「激安」「どん底市」「早い者勝ち!」など宣伝文句や看店名板が張り巡らされている。ボクが「連呼物件」と呼んでるタイプだ。壁にも石垣にも駐車場にも有田焼の巨大な皿や陶板がこれでもかと貼り付けてある。ま、そういう街だとはわかった。

 旧道に入ると景色が一変した。ゆったりと蛇行する一本道の両側に陶器店や窯元が立ち並び、その一軒一軒が昭和というか大正というか明治というか江戸というか、とにかくレトロな建物で、いわゆる宿場町とは違う昔感を漂わせている。レトロな洋館風の商店や、蔵みたいな家や、ナマコ壁の家もある。統一感がないのだが、全体としての雰囲気は持っていて、ちぐはぐには感じない。古そうな寺もあって、ますます街に歴史を感じる。裏のほうにはレンガ造りの四角い煙突も見える。車道はアスファルト、歩道は石畳というのも面白い。ボクはゆっくり味わって散歩した。

 最後のところに「有田内山伝統的建造物群保存地区」という説明書きがあり(これも陶板)、江戸時代にここは陶業で栄え「有田千軒」と呼ばれたが、文政11年(1828)の大火でほとんど全部が焼失。そこから幕末をまたぎ復興しながら時代を重ねるうちに、この街並みが形成されたという。建築時期別には、江戸期27軒、明治期38軒、大正期28軒、昭和期54軒と記されている。最初にボクの感じた「昭和というか……」という直感が証明されたようで、嬉しかった。


武雄温泉からの佐世保線車内。
不思議にリッチなデザイン

有田内山地区。
いろんな時代の建物が並んでいて味わいある
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