『トレたび』は、交通新聞社が企画・制作・運営する鉄道・旅行情報満載のウェブマガジンです。

久住 昌之 Kusumi Masayuki (文・写真・画)

東京都出身。ドラマ化された『孤独のグルメ』(谷口ジローとの共著・扶桑社)、『花のズボラ飯』(水沢悦子との共著・秋田書店)ほか、漫画、エッセイ、音楽など多方面で創作活動を展開中。焼肉、ラーメン、カレーライスなど、愛する26品目のメニューについて語ったエッセイ『食い意地クン』(新潮社)がついに文庫化。

佐世保線 させぼせん

肥前山口(佐賀県江北町)から佐世保(長崎県佐世保市)まで全14駅。48.8km。明治31(1898)年1月に全通している歴史ある路線。博多から佐世保行きの特急みどりが運行。特急ハウステンボスも佐世保線を経由する。

 

 ゆっくり歩いて有田駅に着くと、昼にはまだ早かったが、駅前のいかにもこの地に長そうな「池田屋食堂」にビンビンにそそられ、入ることにする。うどん、ちゃんぽん、皿うどんとあり、ちゃんぽんに激しく惹かれたが、長崎で食べると決めていたので、うどんを食べる。
 その前に「ごどうふ」と小ビールを飲んだ。ごどうふとは、豆腐を作るのに、ニガリのかわりに葛や澱粉を使い、豆乳を加熱して凝固させるものだ。初めて見た。ゴマ豆腐に似たツルンとしてもちもちした触感。ボクの苦手な九州の濃い甘口醤油に、すりゴマを入れたものがかかっているが、さすがにこれはピッタリの味で、おいしかった。うどんを待っている時、入ってくる客くる客が「ちゃんぽん!」というので、激しくうどんを頼んだことを後悔した。この店でうどんなんて頼むのはド素人の馬鹿だけじゃないか。でも、来たうどんは見た目関西っぽく、だしが効いた汁がウマく、ホッとした。俺はしくじってない。セーフ。待ってろ、ちゃんぽん。


有田のごどうふ。
ボクの苦手な九州の濃い甘口醤油が合う

 さて、有田駅で切符を出して乗ろうとすると駅員さんに「あ、お客さん、これは下車前途無効ですよ」と言われた。編集部から送られてきた「武雄温泉→佐世保」の切符を、ボクは勝手に一日何度でも乗り降りできると思っていた。「すいません、切符買ってきます!」と言うと駅員はニコッと笑って、「よかです。今度から注意して下さい」と言った。この「よかです」にやられた。ズーンと胸に響いた。方言の勝利。ああ、なんて強くて、なんてやさしい。

 今度の列車はさっきより普通な2両編成ワンマンだった。だが駅が近づくと「キンコン」「ブー」「キンコンカンコンキンコンカンコン(駅までずっと)」「まもなく○○です」「ドアが開きます」「ピープー」「プーーーン」「ドアが閉まります。ご注意ください」「プーーーン」ものっすごくニギヤカ。眠りたい人はヤカマシイだろう。 早岐駅で降りる。「はいき」と全然読めなかった。住所を見ると長崎県になっている。今回は歩いて佐賀から長崎入りできるのかと思っていたのでちょっと残念。

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