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久住 昌之 Kusumi Masayuki (文・写真・画)

東京都出身。ドラマ化された『孤独のグルメ』(谷口ジローとの共著・扶桑社)、『花のズボラ飯』(水沢悦子との共著・秋田書店)ほか、漫画、エッセイ、音楽など多方面で創作活動を展開中。

中央本線 ちゅうおうほんせん

東京から塩尻(塩尻市)を経て名古屋までの396.9㎞、112駅(岡谷~塩尻の支線のぞく)。
今回は山梨市(山梨市)から勝沼ぶどう郷(甲州市)まで、10㎞程度を歩いた。

 

 正面の山がいつの間にかだんだん大きくなってくる。塩山の駅が近いようだ。「塩山温泉郷」のアーチがある。温泉もいいなぁ。ゴールしたらどこか日帰り温泉にも入りたいなぁ、とアタマが贅沢になってくる。塩山駅前には大きなスーパーマーケットもあって、ここはずいぶん都会だ。ここから中央本線はほぼ90度曲がって、真南に向かう。駅前の国道も、少し線路から離れて、重川の橋を渡ると、大きく南に曲がる。川を渡ったら、高い建物がなくなり、急に緑が増す。フルーツ農園やブドウ狩り、サクランボ狩りの立て看板が増える。


ブドウ畑が遠くの山の斜面まで続いている

 さらに国道を歩いて行くとまわりはブドウ棚だらけになってきた。まさにいま収穫している農家のオジサンがいる。すごいすごい、ごちそうの山だ。と思って歩いていたら、左手の山裾を紺とクリーム色に塗られた古い中央本線車両がトンネルを出て、走っていくのが見えた。イイ感じ。盆地のヘリを走っている感じだろうか。道がゆっくり上っている。

 山がさらに近づく。うわわ、波打つ低い斜面が、全部ブドウ畑だ。こんなことになっていたのか。それが今まさに最盛期なのだ。まさに宝の山だ。


塩山から勝沼への道で、3両編成の普通車がカワイイ

 道はいつの間にか線路に近づき、その下を潜る。あずさだろうか、特急列車が通り過ぎた。そこを過ぎたところから、またすごく細い線路に沿った細い道を見つけ、つたい歩く。この道がスッゴクよかった。旅人はまず歩かないだろう。誰もいない秋の小道。右手は線路、左手は緑とブドウ畑。


このブドウを盗んだら、まさに宝石泥棒だと思った

 初めて「ぶどう泥棒特別警戒中」の看板を見た。警察犬も出動しているらしい。それはそうだ。手塩にかけた高級ブドウを持っていかれちゃたまらない。


勝沼ぶどう郷駅ホームの「孤独の鉄チャン」

 3時40分、勝沼ぶどう郷駅の表示が出た。駅手前の階段を上って旧勝沼駅ホーム跡が狭い公園になったところを歩く。隣に少し高くなって今のホームがある。若い孤独の鉄チャン(撮りテツ)がひとり、列車が入ってくるところを待ち構えて正面から撮り、その電車に乗り込んで去っていった。

 駅到着。高台にあって見晴らしがいい。正面にブドウの丘が見える。バスツアーなんかが行きそう。駅には大学生の男女グループが手に手にブドウの包みを提げて楽しそうに和んでいる。オジサンは、孤独のブドウだ。

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