『トレたび』は、交通新聞社が企画・制作・運営する鉄道・旅行情報満載のウェブマガジンです。
東京都出身。ドラマ化された『孤独のグルメ』(谷口ジローとの共著・扶桑社)、『花のズボラ飯』(水沢悦子との共著・秋田書店)ほか、漫画、エッセイ、音楽など多方面で創作活動を展開中。
東京から塩尻(塩尻市)を経て名古屋までの396.9㎞、112駅(岡谷~塩尻の支線のぞく)。
今回は山梨市(山梨市)から勝沼ぶどう郷(甲州市)まで、10㎞程度を歩いた。
駅で、近くに「大日影トンネル遊歩道」というのがあるのを知り、行ってみる。現行の中央本線のトンネルのすぐ隣に、使われなくなった鉄道のトンネルが遊歩道になっている。近づくと、トンネルから冷気が出てきているのがわかる。なんと線路まで残してあり、通り抜けるのに30分もかかるという。中に入るとものすごく小さく出口が見えた。一直線のトンネルだ。肌寒い。4時に閉まるというので、5分ぐらい歩いて、戻る。これはすごい。向こうから歩いてきたおじいさん3人組とすれ違う。「ようやく出口だ」と言って、写真を撮り合っている。いいものを最後に見れた。
そこから歩いて出てきて、行くときには気がつかなかったブドウの直売店を発見する。小さな店で、奥でブドウの発送をやっている。店の前で、数種類のブドウを試食させてくれる。いろいろ食べて、どれもおいしかったけど、大粒でパンパンになった種無しのピオーネが最高においしい! ここまで来た甲斐があった。立て続けに何粒も食べてしまい、3房買った。3000円ちょっと。このブドウなら、安い。店のおばちゃんに、ここまで大きい粒のはお店には卸さないと言われ、ますます得した気分。ところが、夢中になり過ぎて、またこの店の写真を撮るのを忘れた。食うことに夢中になって、仕事を忘れてばかりの今日の俺だ。
駅でちょっと調べたら、フリダシに戻った山梨市の近くに「正徳寺温泉」という湯がいい温泉があると知って、戻ることにする。駅からタクシーで1000円。歩いたあとの贅沢だ。わりと楽なコースだったとはいえ、汗もかいている。温泉に入って全部着替えたい。
このお風呂がよかった! 入った瞬間「え」と思うほどぬるい。湯温37度。ほぼ体温だ。泉質がよく、長く入って欲しいためにあえてそうしているらしい。でもちゃんと熱い風呂もあるので安心。しかも露天風呂もある。ここもわりとぬるくて、いつまででも入っていられる。空が秋だ。気持ちよすぎる。実りの秋という言葉を堪能した気分。
※「旅の手帖」2014年11月号より掲載しました。