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鉄道カメラマン太鼓判!ローカル線でぶらり紅葉狩り vol.2 木次線 車窓を流れる色づいた景色、のんびり走る列車。ご紹介する“紅葉列車”は鉄道カメラマン太鼓判!の路線ばかり。今年の秋は、ローカル線で紅葉狩りを楽しみませんか。

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車窓を彩る北アルプスと紅葉 目指すは秘湯の一軒宿! 大糸線|松本→糸魚川 紅葉の見頃:10月中旬~11月上旬(例年) 松本と糸魚川(いといがわ)を結ぶ大糸線の車窓に広がるのは、燕岳や蓮華岳、唐松岳、白馬岳といった北アルプスの峰々。大自然の雄大な風景を楽しんだら、歴史深い山中の秘湯を訪ねよう。

車窓の向こうに広がる北アルプスと仁科三湖の風景

 宍道(しんじ)駅から南に向かうとすぐに里山と、里山の間の小さな谷に点在する美しい水田を見ながらの旅が始まる。昔話の挿絵のような透明感に充ちた集落が車窓を飾る木次(きすき)線。

 『出雲国風土記』にも記されている海潮(うしお)温泉や素盞鳴尊(すさのおのみこと)ゆかりの須我神社への最寄り駅である出雲大東(いずもだいとう)駅までの時間はアッという間に過ぎてしまう。

 季節運転のトロッコ列車「奥出雲おろち号」の発駅・木次は、八岐大蛇(やまたのおろち)の棲家だった天ヶ淵のある斐伊(ひい)川に沿う町。この木次駅を出ると早くもトンネル。トロッコ列車は窓がない。だから、トンネルに入ったときの風がスゴイ。いきなりの風の洗礼に「ウワァー」「ヒャァー」の声があちこちで上がる。

 トンネルは備後落合までに27あるが、どれも個性的で、例えば下久野トンネルは2241mの直線だから、出口の光が針の穴ほどの大きさから次第に大きくなってくる妙が楽しめるし、反谷(たんだに)トンネルではレールの軋(きし)む音が半端ではない。車内アナウンス曰く「大蛇の叫び声です」。なるほど! 神話の世界ならではの音……か。

 日登(ひのぼり)駅を出ると、車内やホームでの販売が始まる。品物はそれぞれの地域の特産物。例えば日登は「食の杜(もり)」の生みの親・木次牛乳からアイスクリームやプリンなど。仁多(にた)米と仁多牛の産地・出雲三成(いずもみなり)は仁多牛べんとう、松本清張『砂の器』で有名になった亀嵩(かめだけ)駅ではそば……等々。なかなかの人気である。

 「食の杜」は半世紀も前から食の安全を唱えて有機農業をしてきた自称“百姓”たちの信念のコミュニティ。ブドウ畑を囲んで高台に天然酵母のパンを焼く「杜のパン屋」や国産大豆と天然にがりで豆腐を作る「豆腐工房しろうさぎ」がある。

 「奥出雲葡萄園」も小さなワイナリーだが土をつくり、樹をつくって、まず健康なブドウを育てる。そうして醸されたワインは味・香りともに高い評価を得ているが、何より「料理に合うワイン」としてファンが多い。見るからに豊かな農場が眼下に広がるゲストルームでは、「食の杜」の農園で穫れた野菜、平飼いの有精卵、木次牛乳のチーズ等々、安全・安心な食材を使った料理とワインが楽しめる。

 長い下久野トンネルを出ると標高は55mも高くなっている。中国山地の中腹であるこの辺りは寒暖の差が大きいから、秋は山も野もすべて鮮やかな色彩になり、その気候はまたここで穫れる仁多米や在来種の横田小(こ)そばを「うまい!」と唸らせる味に育てるのだ。

八岐大蛇を退治した素盞鳴尊と稲田姫が新居として造った須我神社
奥出雲葡萄園のランチの食材は有機農業の「食の杜」の農園産

人里離れた山奥の秘湯で厳選を堪能する至福のとき

 出雲三成駅が起点の鬼の舌震(したぶるい)は、巨岩を包む紅葉が美しい。日本海に棲むワニがここに住む美しい姫を慕って斐伊川を遡ってきたという神話も肯ける。

 八岐大蛇は砂鉄とたたらのことだという説もあるほど、奥出雲は良質の砂鉄が採れる。鉄師頭取・絲原(いとはら)家の記念館では、横田の「奥出雲たたらと刀剣館」ともども、たたらのことを解説。ガラス工房「びいどろギヤマン瓶耀舎(びんようしゃ)」も刀剣館と同じ高台にある。

 横田小そばが味わえるのは「一風庵」。ここのそば粉はすべて横田産。「地のものを食べる」。店主・島啓司さんの、いわば哲学が打ち出すそばだ。

 出雲横田駅の東方に聳える船通山(せんつうざん)が、素盞鳴尊が高天原(たかまがはら)から降りたという鳥髪(とりかみ)山。斐伊川の源流だ。登山口にある「民宿たなべ」は豊富な湯量の斐乃上(ひのかみ)温泉。自然と同化した源泉宿だ。

 出雲坂根駅は標高564m。ホームに名水「延命水」が湧く。わずかの停車時間に水を飲み、汲む。その後、列車は標高726mの三井野原(みいのはら)駅まで標高差162mを三段切り替えのスイッチバックで上る。大蛇がとぐろを巻いた姿をイメージした国道314号の「奥出雲おろちループ」も樹林の間に見える。

 三井野原駅~油木(ゆき)駅間、列車は美しいカラマツ林の中を走る。絵画の中にいるようだ。やがて木次線終点の備後落合駅。多くの人が帰りも再び「おろち号」に乗り、列車旅を楽しんでいた。

3年要して復活させた「横田小そば」を使った一風庵のそば
船通山登山口にある斐之上温泉「民宿たなべ」の風趣な露天風呂


トロッコ列車はガラスの仕切りなし。奥出雲の景色も風もダイレクト


トンネルに入ると天井に這う大蛇と星のイルミネーションが輝く


駅ごとに乗ってくる地域自慢の弁当やおやつの車内販売も楽しみ


運転士さんの気分満喫! ここは「奥出雲おろち号」の特等席!


出雲坂根駅のホームに湧く名水の「延命水」。停車時間は水汲みタイム


おろち号から見る日本最大級二重ループ「奥出雲おろちループ」の三井野大橋

路線データ

JR木次線
宍道~備後落合81.9km/駅数18/普通運賃=宍道~備後落合1450円
山陰本線の宍道駅から中国山地を越えて、芸備線の備後落合駅を結ぶ単線・非電化のローカル線。昭和12年12月12日全線開通。出雲坂根駅のスイッチバックやJR西日本最高地点駅の三井野原駅などで知られる。

 乱暴者で高天原(たかまがはら)を追放された素盞鳴尊(すさのおのみこと)は斐伊(ひい)川上流の鳥髪(とりかみ)に降り立ち、そこで八岐大蛇(頭も尾も8つある大蛇)を退治して、食われかけていた稲田姫を救う。

 尊と姫は結婚を約束し新居を構える地を探す。ある地に来たとき、尊が「我が心須賀須賀し」と言い、そこに宮を建てた。ゆえにその地を須賀と呼び、宮は須我神社となった。

 このとき雲が立ち上ったので尊は「八雲(やくも)立つ出雲八重垣妻ごみに八重垣つくるその八重垣を」と歌う。和歌の始まりであり、須我神社は和歌発祥の地となる。「出雲」の名もここから。退治した大蛇の尾から出た剣が「天叢雲剣(あめのむらくものつるぎ)」。後の三種の神器の一つ・草薙(くさなぎ)の剣である。農耕を脅かす斐伊川の洪水を稲田姫と大蛇で象徴した神話である。

神楽で舞われる八岐大蛇。素盞鳴尊と八岐大蛇の死闘は人気の演目

TOP写真=マシマ・レイルウェイ・ピクチャーズ(木次線 三井野原~油木駅間)
文=西本梛枝 写真=谷口哲
※掲載されているデータは、平成21年10月現在のものです。
※月刊『旅の手帖』2008年10月号より転載。

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