「釜石まで行くのなら、花巻経由の釜石線が早いですよ」。新幹線から在来線に乗り換える盛岡駅の連絡改札で、時刻を尋ねた僕に駅員さんが丁寧に教えてくれた。「いえ、山田線に乗ってのんびり行きたいんですよ」「………」
ちょっと不思議そうな表情の駅員さんをあとに、3番線ホームから11時4分発の快速「リアス」宮古行き2両編成に乗り込んだ。ディーゼル特有の低く重い振動がひときわ強くなったかと思うと、車体を軋(きし)ませながら列車はゆっくりホームを出て行った。
左後方に岩手最高峰の岩手山(2040.5m)がゆっくり遠ざかっていく。上盛岡、山岸と住宅街の駅を過ぎ、右手から米内(よない)川が近づいてくると、車窓は緑一色だ。次第に上り勾配がきつくなり、トンネルの連続。カーブを曲がるたびに鳴らす「プォー!」という警笛が、列車の喘ぎ声にも聞こえてくる。なにしろ大志田~区界(くざかい)間は、1000分の25(1000mで25m上がる)の急勾配。昭和57年まではスイッチバック方式を採用していた区間である。
やがて左手にとんがり頭の兜明神岳(1005m)が見えてくると区界駅に到着。なだらかな高原風景は、この区間最大の絶景ポイントだ。
区界からは下る一方。再び山が迫り、閉伊(へい)川の急流が岩を噛む。岩泉(いわいずみ)線と分かれる茂市(もいち)、蟇目(ひきめ)とひなびた風情の駅を通り、13時3分宮古駅に到着した。ここで3分の待ち合わせで釜石行きに乗り換える。
宮古までとうって変わり、宮古~釜石間は海岸線を行く。特に陸中山田を過ぎ、織笠から浪板(なみいた)海岸、吉里吉里(きりきり)の間は船越湾が車窓いっぱい、スクリーンのように広がる。ホタテを養殖する筏が旅情たっぷりだ。やがて製鉄所が見えてくると、釜石駅に到着した。釜石駅前の橋上市場サン・フィッシュ釜石へ。ウニや鮭など海産物の店がズラリと並んで、すごい活気!
「お兄ちゃん、どっから?」「横浜からです」「あれ、まぁ。そっだら遠いどこから。これ食べてみなせ」
今年80歳というおばあちゃんの笑顔に魅かれ、思わずホタテ10個を実家に送ってしまった。
場内の「まんぷく食堂」で遅めの食事をし、釜石駅から15時39分の山田線に再び揺られ、宮古へ。駅前からバスで25分、今日の宿泊先である「休暇村陸中宮古」へは18時30分に着いた。
- サン・フィッシュ釜石内「まんぷく食堂」の「5きげん政宗お宝丼」
- 紺碧の海に整列する白い岩塊がまさに極楽浄土を思わせる浄土ヶ浜